その文面だけ、なぜ目に入ってきたのかは謎だった。他の募集は文字の羅列で意味が取れないのに、一体なぜなんだろうと考えると、これが一晩のみの募集だということに遅まきながら気がついた。自分に都合よかったから…だがそれだけの理由だったのだろうか。これがダメだったら自分でどうにかするしか無い。長い長い夜を独りでのたうち回って、夜が白み、黎明が朝になって…それでも今の僕に自分で自分をイカせられる気がどうしてもしなかった。責任感の強すぎる幸村さんに甘やかされた自分の身体が、自分自身を拒絶しているとでも言わんばかりの、この鈍麻した感覚だけが僕のすべて? それとも待っているのだろうか…あのしつこい男を…僕が? いつ?
そんなことを認めるわけには到底行かなかった。僕は一秒たりとも誰かを待ったことはない。誰でもいいのだから、僕の人脈が貧困なだけなのだ。そしてそれを証明するかのように今この新着のメッセージは、他の書き込みがおよそ全部ダメな割に、それだけなにかまったく他のものと関係のない文脈で現れてきたのだ。まるでこの掲示板をただ借りただけの、僕だけに囁いているメッセージのように。だって、一夜限りの刹那的な関わり…地理的な優位…年齢…Sには慣れている…おしゃべりは嫌い…僕以外に誰が居る? 奇跡が起きたのだから…さて、そうなんだから、これはどうやって返信できるんだろうか? このボタンを押すんだろうか…
『返信』と書かれたボタンをクリックすると別画面が小さく開き、記入できるボックスが現れた。何て書けばいいのか…当方27歳社会人…人付き合い苦手で聞かれたこと以外話しません…いま早急に処理してもらえるならハードな行為可…経験あり…一晩のみこちらも希望…その後の付き合いは一切不可でお願いします…◯◯駅近辺にいます…
送信ボタンを一瞬ためらった後に押していた。そして自分のやったことに自分で唖然とした。早急な返信希望ということは、今、何人か返信していることだろう。選ばれなかったら万事休すである。企業の面接のようだ…だがこれは内定が出てる気がするんだ…気が狂れた人間の誇大妄想とも言えるおかしなことを考えながら、携帯に送られて来るはずのメールを待つのに床に倒れた。身体を支えているのが苦痛だった。と同時に自分の蛮勇に少し驚いた。なにをされるかもわからない見知らぬ人間にこんな返信を打てるなど、平時の自分に想像など出来はしまい。これで佐伯陸にも偉そうなことは言えなくなった。
ピロラロン。
その時、携帯からメールの着信音が響いた。床に倒れた3分後、その返信はとても早かったと言えた。
『どこに迎えに行けばいいですか? わかりやすい場所を返信してそこで待っていて下さい』
僕は歩いていける近所のスーパー丸屋の駐車場を指定した。すぐ行くという返信が反射的な速度で返ってきた。



