「結局、彼を刺した犯人は捕まらず…ですねぇ」
と、なにか違う意味でガッカリしたような堺教授が教授室の椅子で呟いた。長谷川警部がDevotion&Triggerに関連した事件の報告とまた新しく出てきた危険ドラッグ“Melty pink”の資料を届けに来て、10分ほど前に帰っていったところだった。
「それ、犯人逮捕出来なかったっていうんじゃなくて、あの刺創の人のナイフを見たかっただけじゃないんですかね」
「あら…バレた?」
僕の言葉にニッコリ笑って、堺教授は椅子の背もたれでギューッと伸びをした。
「それと使い手を見たかった、でしょ」
「ふーん、ふーん。岡本君、いい線いってる」
堺教授は不意にデスクの引き出しから書類を引っ張りだした。そしてそれをめくって僕に見せた。
「早計な断定は捜査の邪魔になるから塚本くんには言わなかったけど…」
見るとそれは鉛筆描きされたナイフの絵だった。
「あの傷口にぴったりなのはこれなんだけどなぁ」
ナイフの下に文字が入っている。
「G…サカイ…桜…? 堺先生が作ったんですか?」
「まーさか。老舗の日本のナイフメーカーだよ。関の孫六って言って、これは備前じゃなくて美濃の刀工の末裔っていうかね。サカイは坂道の坂に井戸の井だから私とは字が違うけど、世界的な刃物メーカーさんの名前と自分の名字の読みが一緒っていうのはマニアとしては気分良いでしょ。ガーバー・サカイが正式名称。ガーバーでここのナイフを販売してたこともあってね」
これは凄い特技なのではないかと、僕はフツーだと思ってた堺教授の知られざる能力に改めて驚愕した。



