月曜日に朝から署から法医学教室に連絡が有った。ついに暴対が乗り出してきた。強行班の事件である殺人から暴対班にヤマが移行することはママある。この界隈は例の日本一大きな組織ではなく、江戸期以前から存在する生え抜きの博徒系組織『永岡連合』がまだ生きていて、本州の2番手の『海神会』と勢力を二分している珍しい県だと、以前解剖に来た丸暴の警部補が説明してくれたことがある。とうとう組織がらみの犯罪になったこの事件の切創の情報がまた増えたことも有り、今日は堺教授と遺体の見分に来たとのことだった。

「今回は組じゃないんだけどね」
「と言いますと?」

 堺教授が塚本班長に尋ねた。堺教授の後ろで、僕は助手として手伝いながら聞いていた。

「ゾクあがりのいわゆる準暴力団てヤツ」
「ああ…半グレとかいうのですか」
「そうそう。それと中国系ね。結局それの抗争が絡んでる」
「暴力団が締め付けられて勢力図が変わってきたってのは聞いてますが…」
「ここも入り込まれつつあってね。前は県外から買ってた脱法…いや危険ドラッグを直でデリバリーでやりたいの、どっちの組織も。このあたりでね。まだ勢力図曖昧だから。2年前の例の永岡のやらかした抗争ですっかり海神もろとも勢力削られたからね」
「そこにつけ込まれたってことですか」
「そうそう。えげつないこと平気でするからね、暴対法で手足の出ない古い連中はタジタジですよ」
「で、この仏さんもその?」
「いーや。それがそうじゃないんで。この人は末端だったみたいですよ。危険ドラッグの末端の売人はイリーガルだけど組員じゃない。元々はこの人も裏DVDなんかのネット販売店やってて、小遣い稼ぎにこれ始めたんだから。だってシャブなんかに比べたら安いもんね。リキッドなんか5000円くらいで手に入る。そんなハシタ金、以前は組の者は手ぇ出さなかったんですよ。利益薄いから。それが最近じゃ規制が厳しくなったんで地下に潜られる。そうするとにわかにシャブ売ってたプッシャーが扱い始めんのね。規制厳しくなると値段が釣り上がる。それを掘り起こさんきゃない」

 水面下の攻防の話は続いた。入り込まれてるというのはこれのことかと、先日県警の長谷川さんの話と繋がった。

「そんで今、どっから買ってたかを調べるために、麻取と県警で合同捜査室作って、囮の通販サイト作って偽リキッドのデリバして取り敢えずユーザーを炙りだしてるとこ」
「こっちの殺しの方は進んでるんですかね」

 県警では殺人よりも今は危険ドラッグの水際対策のほうが優先されてる感が際立っていた。