佐伯陸はフラフラになりながらもう一度シャワーを浴び、その後僕と一緒にベッドルームに行くと、脱力したようにベッドに横になった。その横で僕はベッドに腰掛けた。枕元を見ると、そこにはやはり記憶通り例の瓶があった。捜査資料通りの紛れもない『DT』のビンだった。

「どうするの? このビン」
「…浩輔に言う」
「大丈夫なの?」
「浩輔は…多分現実的な処理してくれると思う…それに事件に絡んでたらボク、言わなかったこと後悔すると思うから」
「信頼してるんだね」
「うん」
「君のこと心配してたよ。とても」

 僕に押し付けるのはどうかと思ったが。

「区切りがあるっていうことも…聞いた。仕事の区切りが命の区切りになることもあるって僕に言って…悲しそうだった」
「まだ…気にかけてくれてるんだ…なんか後ろ髪引かれる」
「好きだったんだもんね、彼のこと」
「…好きでも、厳しいな…浩輔と一緒には居られない…もういい」
「じゃ、任せる。リキッドのことは」
「うん。わかった。ありがとう、教えてくれて…ね、一緒に寝てくれます?」
「いいけど…食卓片付けてくる。残ったパスタ、どうする?」
「あ…そうだった…いいよ、ボク片付ける」

 起き上がろうとするので、佐伯陸の肩を手で止めた。

「あんなに吐いたんだから、寝ていればいい。僕がするから」
「ごめんなさい…じゃあ、お言葉に甘えます。パスタはお皿ごと2個ラップして冷蔵庫入れておいて下さい。明日の朝ごはんでオムレツにします」
「残ったのリメイクするんだ」
「うん。よく食べ残しちゃうから…ネットで調べてレシピ覚えた」
「じゃあ、そうしておく」
「お腹すいてません?」
「ぜんぜん」
「小食ですね、いつも」
「うん。問題ない。そのかわり水をもらうよ」
「ええ、いくらでも飲んで下さい。浄水になりますから使って」
「ラップどこ?」
「冷蔵庫の横にマグネットで着けてあるホルダーの中に入ってます。」

 キッチンに行き、冷蔵庫の横から言われたようにラップを取り、皿に掛けた。これを翌日違う料理に変えるのか、と思うと、案外この人は食べ物は大事にするんだな、と思った。厳しかったと言っていた母親のしつけのせいだろうか。

 佐伯陸の皿はほとんど手を付けていないような残り方だった。僕のほうが食べている。大きな冷蔵庫に皿を入れて、残りの食器とカトラリーを洗った。洗い終わってコップに浄水を入れて飲んだ。そして、佐伯陸の寝ているベッドルームに戻った。掛け布団の上で、僕がキッチンに行く前の姿のまま、すでに佐伯陸は寝ていた。痩せこけた小さな身体を端に転がして、掛け布団を剥ぎ現れたマットレスの上にまた転がして戻すと、少しうう、と唸って薄目を開けた。

「…ねてた」
「引き続き寝ればいい」
「うん…隣…来て…」
「はいはい」

 また、なし崩しにこのベッドで寝ることになった。掛け布団の中に入ると、寝ぼけながら佐伯陸が僕の身体に身を寄せてきた。腕が絡んできたと思ったら、スースー寝息が聞こえた。そう言えば、佐伯陸にゲイの出会い系サイトを紹介してもらわなければということを遅まきながら思い出していた。あからさまに、僕がそのサイトを使いたい、なんて言うと、また色々面倒臭くなる気がして、少々作戦がいるかもなと思った。そんなことを考えているうちに、僕も佐伯陸の後を追って眠っていた。