「いない母親より…レイプされても、一緒に居て抱きしめて肌合わせていてくれる先生の方を選んだ。犯されるのにも…だんだん慣れちゃって…怖さとかショックとか気持ち悪さとか、そういうのぜんぶ快感に書き換えてった…自分が女の子だって思うことにしたら…快感が二倍になった…やっぱりボクは男の子じゃなかったってそのとき自覚した…何でも受け入れて…身体も心もインランになってくのが…何も見てくれない母親への復讐みたいに思った…親のいない家で、女の子のカッコになって…先生を迎えて…嫌がるボクを先生、玄関とか親の寝室でわざと犯すんだ…ボクや先生の精液の染み付いた家にお母さんとお父さんが何も知らずに帰ってくるの見て、ザマァミロって…英会話のレッスン、勉強机の前で後ろ抱きにされて、裸でイヤらしい英単語言わされて…間違えるとお仕置きだってエロいことされて…でも犯されてからのほうが英会話どんどん上達してって…それでお母さん喜んでる…バカなんじゃないの? こうやって子供が壊れてくの親のくせに全然わからないんだ、って…心の中で嘲笑ってた…でも…ホントは違ったのか…それ…許せないのは…求めてたのに裏切られたから…?」

 佐伯陸は目を閉じて笑った。そのあとフッと真顔になった。

「なんで…言わなかったんだろ…言えばよかったんだ…」
「言うなって…言われたんでしょ」
「…ああ…そうだった…なんで知ってるの?」
「僕もそう言われたから…黙ってろって」
「言えない…よね…でも…言っていいって言われても…言えないよね…」

 佐伯陸の身体がこちらに倒れてきて僕に寄りかかった。しゃがんだまま僕は、寄りかかった彼の頭を片手で抱いて支えながら言った。

「うん、言えなかったよ…親になんて…言ったら親のほうがおかしくなりそうで」
「うん…ボクも…そうだった…な」

 自分のほうが親より強い。そう思った理由は何なんだろうか。でも、受け入れられるのは自分だけだと、その性的な事件を親に話すなんていう選択は考えもしなかった。

「それにね…先生も…可哀想な人だったんだよ…先生のお母さん…先生を妊娠したの分かっても、彼氏の家がお母さんが外国人だからって、養育費だけ出して結婚させなかったって…お母さんだんだん頭変になって、取っ替え引っ替え男連れてきて、先生の前でセックスしまくってたって…先生は放ったらかしで…」
「そっか…じゃあ…仕方ないね…先生とお母さんのために言わなかったんだね」
「そうだよ…ね…仕方ない…よね……悲しい…」

 そしてさっき泣いてまだ赤い目からポロポロッと新しい涙が落ちた。

「うん…生きてる世界は…淋しくて…悲しい…だから可哀想な先生も淋しくて君に助けて欲しかったのかもね…淋しい君なら分かってくれるって」

 僕がそう言うと、佐伯陸は僕の身体に深くもたれ直し、涙を僕の着ているスウェットに吸わせながら呟いた。

「裕さん…やっぱり…お母さんみたいです…」
「困りましたねぇ…」
「…また…困った顔してる…マリア様みたい」
「死人のマリア様なんていませんよ」
「恋愛感情湧かないのになぁ…」
「それがいいんだよ。それは…お互いに」

 小さい裕をあやすように僕はそのまましばらくトイレで佐伯陸をもたれさせていた。ループの中の世界…でも、まったく同じじゃないのかも…