「どこまでも…そのままで許して貰えそうな気がするんです。なんの制限もなくて…なんの要求もない。無関心かと思えば、実はそうでもない。見てるだけ…って思うこともある。だけど傍観されてるわけでもなくて…なにか気遣われてるなって思うんだけど、なにかはわからなくて。でもそれがとても…平穏な気持ちでいられるっていうか…静かで…眠ってしまうような感じっていうか…」
「それでも、試したくなるんでしょ?」
「うん。気持ちよさを味わってるとなんだか不意に不安になるんです。本当に許されてるんだろうかって。いつか結局自分の世界に帰っちゃうんじゃないか。飽きられちゃうっていうか…どんな風にこんな自分が受け入れられてるのかもとっても不安になってくる。それで、どんどんひどい自分を見せて、これでどう? こんなんでもまだそんな…そんな平静でいられるの? って…」
「…負荷試験しか、してないね」
「わかってます。でも不安で不安でなにかしちゃうんだ」
「要求はあるよ。僕は生きてる人と一緒にはいられない。何度も言った。だから期待しないでくれっていつも誰にでも言ってる」
「そのことも、平気だって思ってた。だって恋愛じゃないし。なのに…いつの間にか裕さんのこと恋人でもないのに独占したくなってる自分に気づいちゃった」
「それ…困るな」
「友情でもですか」
「だって…独占欲としては、恋人に匹敵する発言してた」
「ああ…もうそれ…忘れて下さい」
「忘れられないよ。死にたきゃ死ねって言ったし」
「だって…生きてる人には興味ないって言い切ってるくせに…何をさておいても悲しませたくないほど大事な人がいるっていうの…矛盾してる」
佐伯陸はちょっとだけキッとした口調になった。仕方なく僕はまた自分の過去を小出しに申告するはめになった。
「悲しむと死んじゃうからさ…鬱だったんだ。それがひどくなって希死念慮で自殺未遂図った…僕と一緒に。病気だから、良くなるまでは僕は死ねない。僕は死ねないだけじゃない。社会的に真っ当にやってるようにその人に見えないといけない。僕を殺しかけた罪悪感があるからなおさら。でもだいぶ良くはなってるんだよ。なってるから、なおさら。もう僕のせいで悪くさせられない。それから、もう1人は僕の母親なんだ。僕は母親とも血が繋がってない。でもよく育ててくれた。その母親に、僕が初めて自殺未遂した時、必死に止められた。それで僕は死ねなくなった」



