僕を止めてください 【小説】




「はぁ…はぁ…イッた…ありがとうございます…気持よかったです…見られてするのすごく好きなんです」
「治まった?」
「ええ。そして裕さんに欲情してもいません…大成功…です…ティッシュ取って頂けます?」
「ああ、はい」

 泣きはらした目が真っ赤なまま、荒い息をついてオナニーの余韻に浸っている佐伯陸の頭の中を解剖してみたくなった。欲望への献身とでも言うのか。

「ありがとうございます…あんなことしたのにこんなことさせてごめんなさい。してくれて嬉しかった…まだ足りないけど…良いです…明日裕さん帰ってからしまくります」
「ああ…そう」
「やっぱり後ろにも欲しくなるし」
「はいはい」
「それでもオナニーで済むんですから大したもんです。ボクなのに」
「それは結構だね」
「シャワー浴びてきます。上がったらご飯食べましょうか? パスタくらいなら出来ます」

 時間を見るともう夕方だった。佐伯陸がシャワーを浴びている間、僕はソファに座ったまましばらく放心していた。佐伯陸の立ち直りの早さが見事だった。考えてみれば隆と僕との関係は大人と中3の子供だったわけで、それは隆の罪悪感もひとしおだろう。

 僕はもう27の大人だし、気づけば出会った頃の隆や佳彦と同じくらいの歳になっていた。佐伯陸も成人しているが、僕は年上で、彼はお子様…甘えが利く性格だし、実際年上の僕に甘えている。どこかで自分を正当化して納得する回路があって、その回路に電流が流れると“だってボクしょうがないんだもん”という開き直りが可能で、それを僕は少し羨ましいなと思った。

 バスルームから出てきた佐伯陸は公約通り夕飯の支度を始め、案外手際よく二人前のパスタを作り、それを食卓で二人で食べた。

「カルボナーラ、簡単ですから。簡単な料理は好きです…味付け薄くないですか? ああ、なんでもよかったんでしたっけ」
「うん。問題ないよ」
「張り合いないですね!」
「でもなんでも食べられる。不味くてもわからない」
「食べてもらえないよりいいかぁ」
「そう思ってくれればいいけど」
「そう思います。そう思うことにします…あの…あの…あの…」
「なに?」
「あの…あの……許して…もらえるんでしょうか…今日のこと…」

 珍しくとてもとても神妙に小さく言うと、食べかけの皿にフォークを静かに置いた。