僕を止めてください 【小説】




「触りたい…首触らせて…お願い…そのお父さんが裕さん持ってちゃったんでしょ…誰にも触らせないように…一緒に死にたかったんでしょ…それ、ボクがもらうんだ…裕さんが死んでも構わない。ボクも一緒に逝く。ボクも死ぬから…その悲しむ人を悲しませてやりたい…悲しんで死ねばいい! 死んじゃえばいいんだみんな!!」

 どんな切れ方するんだと言おうと思った矢先、佐伯陸の手が本当に僕の首に伸びた。

「本気なの? やめ…やめろ!」
「やめない」
「ダメだってば!」

 冷えた細い指が僕の喉に触れる。気持ちとは裏腹に身体がビクンと震えた。佐伯陸の手を払いのけながら脳の中のどこかで僕の声が小さく響く。

(これで叶うのに…もう抗うのよしたら?)

「もういいでしょ? だって…裕さんこうする以外やっぱり手に入らないんだもの!」
「約束が違う!」

(違うけど、願いが叶うんだ。一番欲しかったものをくれるのになにを戸惑ってるの?)

「させてよ! ボクにさせてよ! 触られたがってるんだ…裕さんの首がボクを誘ってるのわからないの!?」

 佐伯陸の手が払った僕の手を掴んだ。受け身なはずなのに、そんなことを微塵も感じさせない責めっぷりだった。体重を掛けられて身体がソファに押し付けられる。もう一方の手が僕の喉仏をかすめる。残った1本の手でそれを防いだとたん、佐伯陸はその腕を掴み、両手を取られた僕の身体をソファに押し倒した。押し倒されるのは二度目だった。ドMにしては僕に対してはアグレッシブ過ぎる行為を佐伯陸は狂気で押し切った。

「死なないかもしれないんでしょ? 賭けていい? ボクもう耐え切れないごめんなさい!」

 そう言いながら素早く僕の手首から手を離すと、その勢いで両手で僕の首に手を掛け、佐伯陸の上半身の体重がそれに乗った。絞めながら佐伯陸は微笑んだ。

「辛いでしょ…今、楽にしてあげる」
「やめ…あああっ!!」

 その言葉は佐伯陸の言葉とは思えなかった。空っぽの笑顔が僕の真上で見つめていた。誰だろうこの人は…そう思ううちに、僕が咄嗟に差し込んだ右手ごと僕の頸動脈が潰されていった。久しぶりに味わう感覚だった。湧き上がる快感の中、一瞬で頭の中が真っ白になり抗う力が削がれた。僕は知らずに歓喜の声を上げていた。股間で膨れ上がる性器からドクンと弾ける感覚が僕を襲った。

「くはあぁぁ! イクっ!」

(お母…さん)

 青木三穂の声がした。貴女はまだそこにいるの? 今度は佐伯陸に…取り憑いた…の……佐伯君…君も死ぬ気なのか…? それはやめて欲し……

「裕さ…ん?……ボク……」

 首の圧迫がいきなり消え、佐伯陸の我に返ったような声が遠くでした。それが終わらないうちに意識がスッと落ちた。