少し反省したので、僕は努めて冷静に、いいとこ取りの期待させず傷つけない言葉を選んで話し始めた。可能かどうかは不明で。
「僕が弱いのが悪いんだ。君が泣く事ないよ。自分は死んでるのに、人の死は得意じゃない。死んでしまったらそれはもう僕の至福の世界になるのに…生きてるものが自分から死んでいくのは…なんでだろう…見たくない…みんな…自然に逝って欲しい。だってどのみちエントロピーは増大していくんだから…肉体は自動的に滅びる。抗いようがなく」
そう…だからその通り僕だって死ぬまで生きればいいだけなんだ。と、自分に言い聞かせた。殺して欲しいと囁く何かに蓋をして。佐伯陸ですらもうあの狂気を発散しているわけじゃない。何がそうさせたのか訊きたくないが。
「でも…それでもその宇宙からしたら刹那の時間でさえも生きていたくないって思ってしまうくらいの悲しみがこの世にはあるんです。それはボク知ってる。冷静に考えたら不合理なんです。でも感情はもう耐えられない。だからきっと裕さんにもあるんです。そんな悲しいことが。だってボクにつられて死にたいって思っちゃうくらいなんだから」
「もうそれは…君が死のうとしてないから…ないよ」
そう言っておかなければ僕の羨望がまたムラムラと沸き起こってきそうで、僕は自分も先制した。すると泣きながらかすれた声で佐伯陸が言った。
「でも…死のうとしないなら…裕さんはボクのこと心配してくれないですね。それでやっぱり迷惑だからボクを遠ざけて近づかないようにするの? こんな風に話したり触れたりできなくなるのは…困ります…ホントです…ごめんなさい…困るんです…せっかく区切りが来ても生きてみようかなって…思えてきたのに」
また堤防なのか。僕はその役目にウンザリしてきてる。一つじゃない。隆と寺岡さんの堤防、幸村さんの堤防、その上佐伯陸の堤防の穴にまで腕を突っ込んでいなければならないのか? 手足は四本しか無いっていうのに。
「ボクきっと裕さんを誘惑し続けると思うんです。ボクがのめり込みたいから。やめようとしてもやめられない衝動なんですこれって。でも誘惑しても裕さんが落ちなければボクは裕さんに友情以上の感情を持つことはないと思います。だからやっちゃうこと許して欲しいんです。無駄だって思われてもいいんです。それをわかった上で、もう一度ボクを切らないで友達として付き合って欲しいんです。ダメですか? すごく無理なお願いですよね」
「首さえ触らないって約束してくれたら」
「なんでですか? そんな弱みがあったらボクはきっと我慢できないよ…絶対責めるもの…ボクきっと止められない…」
「僕死ぬかも知れないんだよ?」
それをマジで言ってるのかと思うと、この人の刹那的な快楽の傾向の深さに驚いた。後先の事まったく考えないとはさっきのことで分かってはいたけれど、ここまでとは。



