「あの…心配です。君と関係してる政府などの皆さんも心配です」
「ああ…そうだよね…気が付かなかった。ごめんなさい。裕さんとか浩輔にも迷惑掛かっちゃうよね」
「まぁね。確認したら僕はいまんとこイリーガルではないからいいけど」
立場上の心配として見られてたことにだろうか、佐伯陸の顔が曇った。立場上当たり前だ。僕は追い詰めるように畳み掛けた。
「だいたいクライアントが機密系なのに、そんな人間関係ユルくちゃマズいでしょ」
「…ええ。わかってます」
「わかってないよね。チューリングの失脚した理由とか知っててやってるの?」
アラン・チューリングの伝記に書かれているが、その当時、ゲイの科学者はスパイにそのようなハニートラップを仕掛けられて、機密を盗まれるという噂が立っていた。実際チューリングはゲイの犯罪者に自宅に泥棒に入られて、同性愛が犯罪だった当時のイギリスでそれがバレ、犯罪者扱いされ、その研究者生命を短縮することとなる。それは今の佐伯陸にも当てはまっていた。生まれ変わりと豪語するのも頷ける。佐伯陸は顔を伏せて独り言のように呟いた。
「…その時はどうでも良かった。防衛省も警察庁もみんな破滅しちゃえばいいって思ってた。でももう…やめたんだ」
「それは良かった」
「裕さんに抱いて貰えればいい」
不穏なことを呟いたあと、顔を上げて僕をじっと見つめた。ちょっと待て。
「それ…なんかこの前と雰囲気違うと思うんですが?」
「違わないです」
そう言うとソファから立ち上がり、僕の右隣にマジな顔つきで移動してきた。これは…マズいかも知れない。
「あの。わかってます?」
「わかってます」
「ほんとに?」
「確認して下さい」
スッと彼の腕が僕の頸に回され絡みついた。右肩に佐伯陸の顔が乗せられ、互いの身体が密着した。耳元で吐息と一緒に囁かれる。
「裕さんも…両手、余ってるのに、ズルい」
「雰囲気の危険度を演出しないでくれます?」
危うい感じを払拭するべく、全てをなぎ払う系の発言をぶつけてみた。
「バレた」
「負荷試験じゃなくて誘ってるよね」
「テヘペロです」
「僕には欲情しないって言ってたじゃないですか」
「欲情できるかなーと」
「したいの?」
「一線を超えるときのドキドキに中毒してるんで、ボク」
「ああ…なるほどね。無駄なことをするなぁ」
「ほんっと丈夫な人だなぁ…裕さん」
「死んでますからね」
「悔しい…あはは…めっちゃ悔しい」
言いながら悔しがる割には笑っていた。変な人だ。
「どうすれば勝てるのかな…あんまり負け続けてるとやっちゃいけないことしたくなる」
「それは穏やかじゃないですね佐伯君。方向性そろそろちゃんと修正しようよ」
「裕さんの弱点…あっ、首弱いんですよね、裕さん。取説によると」
それを聞いた瞬間、一瞬背中がゾワッとした。そして首筋が思い出した。あの時の妄想の中の佐伯陸の指を。



