僕を止めてください 【小説】




「なんか…あれからボク、ちょっと変わったみたいで」
「お節介な幸村さんから聞いたよ。男取っ替え引っ替えするのやめたって」
「ああ、それそれ。けっこう夜早く寝られるから深夜過ぎてミッドナイト・ハイで気が狂うことなくなったし」
「それはそれは」
「なんだボク、ぜんぜん落ち着いてるじゃんって。結局、なに? ボクは相手の欲望を満たそうって気を遣ってただけ? って感じです」
「自分のした事の責任取ってたってことですかね」
「まぁ…そう言われたらそうかも。でも向こうが岡本さ…いや…裕さんみたいになにも反応してこなければ、ボクってあんな程度のオイタしかしないんだってわかったし、結局欲しかったのって人肌だけなのかって」
 
 呆れた顔で佐伯陸はため息をついた。自分に対してなのか。

「大人が2人いて肌寄せて済むって言う訳に行かないし。でもセックス好きだし気持ちいいから敢えて求めちゃうし、なんかいろいろ混じってて分けわかんなくなってたのかなって…なんか自分の変態性に疑念が生じるよね。ただのおこちゃまだったっていう結論。でも覆しようがないんで、それを」
「少なくとも、この前の君とはかなり違う気はする」
「でしょ? なにこの感覚。メス猫インラン共同便所のボクどこ?」
「自分で言うかな、それ」
「だってそうだったんだもん」

 向かいのソファで脚を組んで、その脚の上に頬杖をついて佐伯陸はまたため息をついた。

「最初から…彼の気持ちに応えたかっただけなのかもって…最初に犯された時から…」
「中学生の?」
「うん…相手に合わせてボクは変わるんだろうな。それは不可抗力なんですけどね。自分が無いのかな…でもほんとにしたかったのはただ肌合わせて抱き合うことだった。セックスでもエロいことでもなくて、ただのスキンシップでした…チャンチャン」
「それがこの前わかったの?」
「そうなの。裕さんエロくないから、合わせることもなくて。ボクは安心したかっただけの抱っこされ損なった赤ん坊なんですかね。ボクのお母さん、母性が乏しくてね。大学の研究に明け暮れててボクを抱くことが殆どなかったって…ああ…物理学者なんです、ボクのお母さん」
「血は色濃く引いてるみたいだけどね」
「うん。あの人から産まれたのは間違いない。お父さんはピアニストなんです。音大の教授で。お父さんはたまに遊んでくれたけど、でもピアノのレッスンが厳しくて嫌だった。音楽の才能より、お母さんの理数系の才能を受け継いじゃったみたいで。お母さんはボクが小学校の時に三角関数とかフーリエ解析を勝手に解いてたのを小学校の先生から指摘されて、ようやくボクの存在に気づいたらしいですよ。お母さんが放っといたから、お父さんが音楽の方面に行かせようと思ってたのに、それ以来今度はお母さんのスパルタが始まったんです」

 親がいても、いないも同然ということもあるようだ。僕の血のつながらない母親のほうが母親らしいと言えた。そんな昔話の中でそろそろ例のドラッグについての質問をしようと、僕は機をうかがっていた。