僕を止めてください 【小説】




 例の佐伯陸のメールに、次の約束の打診が入ったのはそれから1週間くらいしてからだった。ごく簡潔に『次の土曜日お暇ですか?』とあった。そんなフツーの文章も書けるのかと、正直あれらの文面を書いた人と同一人物とは思えなかった。特に用事もないので『緊急の解剖がなければ午後からは暇です』と書いて送った。土曜日くらい昼まで寝ていたい。『では1時頃またうちに来てくれませんか?』と返信があったので『了解です』と打つと、『やった♪ では土曜の1時に来てくださいませ(*´∀`)』でメールは終了した。

 積極的に佐伯陸と会いたいわけではなかったが、確かめたいことがあった。彼女の家でないと確認が出来ない。

 Devotion&Triggerの瓶がまだあのベッドの枕元の棚にあるかどうか。

 どこかで見たそれは、僕の記憶が正しければ、そこにあるはずだった。瓶の画像を資料で見てから、どこで見たか思い出すまでそんなに時間は掛からなかった。だいたいそんなものを持ってる人間のあてなんて佐伯陸以外にはない。僕の生活動線の中にもない。スーパー丸屋で売ってでもいない限り、そんなもの見るような生活ではないのだった。

 やれやれ…こんな厄介な話はない、と僕はため息をついた。幸村さんに相談しようかと思ったが、あれを持っている佐伯陸が幸村さんにどう扱われるのかよくわからないし、幸村さんがそれを知ってどうするのか考えてみると、知ってしまってしらばっくれるのも職務上問題だし、しらばっくれなければ佐伯陸は処罰対象になる可能性は高い。だが、あの瓶を危険ドラッグだとわかっているのか、もう常習者なのかどうかすらまだ不明だ。とりあえず事情を聞いてから判断するしか無い。本当に厄介なことだった。