教授室の応接セットのソファに、何故か僕も座らされていた。長谷川警部が苦い顔をして座っている。

「…で、それは確実なんですかね、堺教授」
「ええ。この柄の形が微妙に違うんです。凶器の刃物の2本は似てます。でも長さと柄の形がよく見ると違いました。背中の1創と腹部の2創3創は違う刃物です。1創と2創はほぼ同時に刺しています。二人がかりでないとそれは不可能ですわな。鑑識の血痕の位置もそれで説明が着くと思いますが」
「それはそうなんですがね。それには異論はないが…」

 長谷川警部がなぜこんな面倒臭げな態度をしているのかよくわからなかった。

「岡本君の意見の危険ドラッグですが、かなり嫌なルートのものが今回出たんでね。入り込まれても駆除しやすいものとしにくいものがあって、それからこれはアロマリキッド系だが、死亡事故が出るヤバいヤツです。“Devotion&trigger”っていう商品名がついてることが多いです。いわゆる『DT』って呼ばれてるやつでね。当然水際でも何でも防げというのが警察庁も内閣府からもお達しがあって、県警も重点的に警戒していて、挙句この事件なんで。県警のメンツというものがあって、本部長がかなり機嫌が悪い」

 見過ごしても見過ごさなくても面倒な話になるパターンだなと、僕は長谷川警部の額の縦じわに同情した。

「このルートのリキッドでおかしくなると、異状死の場合、心臓発作とか交通事故とかで処理される場合が多いんですが、この件のように検視やトライエージでは無理だとわかりますよね。だから必ず今後、薬物の可能性のある遺体は血液検査を科捜研に回してもらいたい。この前の倹約の話は忘れて下さい」
「検視の段階で疑わしいものを全部血液検査すればいいのでは?」

 話を聞いていて、司法解剖以前の問題だと思った。すると警部は言いにくそうに言った。