それから次の日の日曜もろくに動けず、ロキソニン漬けでほぼ寝込んで、月曜日の朝、痛いながらも自転車で出勤した。サドルに座ると腰の傷が疼くので、大学に着くまでオール立ち漕ぎで走った。ブレーキをかけると腕の傷が痛んだ。

 スタッフルームに着くと、これから県警の警部が来ると田中さんが教えてくれた。この前堺教授が解剖した防御創のない切創3箇所の彼の解剖の時に、幸村さんと一緒に来ていた警部だった。何回も会っているのに名前は当然忘れてしまっていて、バレなきゃいいなと内心思っていた。堺教授の部屋に行くと、珍しく朝早くから鑑定書の整理をしていた。

「岡本君、出たよ出たよ、科捜研から結果来たよ。脱法ドラッグ…いや危険ドラッグさぁ」
「ああ、そうなりましたか」

 例の節約して使う試薬をフルで使ったに違いないこの結果だった。

「君の勘が当たったね。それとね、切創の状態が複数犯を指してるのがわかってさ。あれやこれやで長谷川警部が今日見えるって」

 長谷川さんというのか…と、僕は忘れないようにポケットのメモにハセガワと走り書きした。ようやくこれで覚えられる。
 
「わかりました。複数犯ってどういうことですか?」
「前と後ろの切創が違う刃物だって分かったの。でね、ほとんど同時に前後から刺してるね。刃物持った人間が二人で前後で同時なんて、殺意見え見えだよね。で、仏さんは危険ドラッグでラリってた、と。もしかしたら強行班じゃなくて担当が暴対班になるかもね」

 ドラッグがいつの間にかこんな田舎にも忍び込んでる。その早さに僕は感心した。この県は、他県やネットでの購入という地元に密着してない販売者が主だった。摘発は東北でも他県に比べて少ない方ではある。それはまだ販売ルートがここにないことが挙げられた。だが実際はもう水面下で広がりつつあるのかも知れない。県では他県に遅れてはいるが危険ドラッグの条例制定に乗り出し、今月から専門家で構成された検討委員会を設置して当たるという。当然ここの医学部からも薬物の専門の教授が借り出され、堺教授は法医学からの見地という形で意見書などを作る予定らしい(実際は僕がまとめているんだが)。こんな事件が起きて、それが危険ドラッグがらみだとしたら、県としても条例制定に拍車がかかるかも知れなかった。それはいいことだ。

 そんな話をしているうちに、県警の長谷川警部が到着した。