僕を止めてください 【小説】




「まぁ早く出たな。痛いと遅くなるからターボかけた。気持ちよかったろ」
「の…飲んだんですか…」
「まあな」
「飲んじゃ…ダメです」
「いいじゃないか。タンパク質だし」
「ちっ…違うでしょ…」
「お前の身体の一部が俺の血とか筋肉とかになるんだし。あ、これ言ったらドン引きされるか?」
「しっしし知りません…そんなの」

 話も聞かず、キッチンに行った幸村さんが多分口と手を洗っているだろう、水の音がした。悶えてくねらせたあとの身体中の傷が、更に熱を持ってズキズキと脈打っていた。自分のハンカチで手を拭きながら幸村さんがベッドまで帰ってきた。

「さてと…次は傷の手当だな…ここまでやるやつだとは思わんかったが」
「痛い」
「良かったな」
「良くないです」
「感覚が戻って」
「帰って来ちゃった」
「おい…死なないってあそこまでタンカ切っておいてこれか? あ、救急箱どこ」
「ないです」
「えぇぇ? 医者かよお前…絆創膏とかは?」
「ないです…瞬間接着剤です…冷蔵庫に入ってます」
「軍隊風だな」
「医療用のアクリル接着剤ですよ。切創にはこれが一番ですから」
「ああ、これか。消毒薬は?」

 と、幸村さんは言ったように冷蔵庫から瞬間接着剤を持ってきた。

「別に消毒とかいいですから」
「消毒しないのか?」
「湿潤療法です。消毒は却って傷が悪化するから…」
「はぁ」
「痛み止めがキッチンの2番めの引き出しに入ってるんで、それを下さい」

 幸村さんが薬を探している間に、僕は起き上がって大腿部の3つの傷を接着剤で閉じた。

「ほれ…痛み止め、水」
「すみません」
「ああ、こうやんのな」

 痛み止めを飲んでるうちに塞いだ腿の傷を見ていた幸村さんは、接着剤を僕に要求すると、それで右の腰の傷を左右から合わせて接着した。

「こうな?」
「ええ」
「お前に付き合ってると、これは必須のスキルになるのか?」
「さあ…こんな切ったの初めてですが」
「やれやれ…イレギュラーに色々起こるってのか。腹の傷やるぞ。仰向けんなれ」
「あ…ええ」

 下腹部、左の腰、腕、と切った傷を接着剤で閉じていく。雑だけど手際はいいようだった。