「ほんとに堂々巡りですね。あなたは何度巡ったら気が済むの? ほんとに…どうしたら…いいんだろう…」
「堂々巡りはお前だ。とりあえず正気に戻れ。もうイッたのか?」
「刺してたら…そっちのこと考えなくて済む」
「それでこんなことしてたのかよ!」
「そう…なのかな…?」
なんで僕はそんなこと始めたのか、と思い出してみた。最初は…なんだっけ?
「どう収めるつもりだったんだよ」
「え…?」
「永遠に自分の身体をカッターでぶっ刺し続けてるつもりだったのか?」
「…さぁ」
「さぁ、じゃねぇぞ。このまま俺が来なかったらどうしてたんだっての! そのくせ俺のこと呼びもしねぇで、お前はどうすんだって」
「さぁ…上半身の感覚を確かめてた…ですかね…まだ臍から上の体幹の感覚を確認してないから…」
「その後は!」
「さあ…」
そもそもどうしたんだっけ、と、僕は思い出そうとしていた。フワフワしてるのはいつからだっけ? 何かを思い出したくないのか、何かを忘れてるのか、この乖離感は一体何なのか、僕にはよくわからなくなっていた。
「こんなに硬いのに」
「え…?」
幸村さんに握られたそこは自分でも戸惑うほど硬かった。
「ああっ!」
勝手に腰が浮いた。自分で触っても感じなかったのに、他人が触っただけで予期せぬほどの感覚が一気に戻ってきた。反射的に両手で幸村さんの手首を押さえていた。腹部の切った傷が初めてズキッとした。
「やめてっ!」
「なんで自分でしなかった?」
「触っても…感じなかった…自分の身体じゃないみたいな…触ってるのも…触られてるのも…ぜんぜんなんにも…なんにも…」
「今日のお前、変だぞ。いつも変だけど、今日は異常だ」
言いながら、僕の性器を何度かしごいた。
「んあ…あ…あ…!」
勝手に声が出て、勝手に腰がわなないた。どこにこんな感覚が眠ってたのか不思議でしょうがなかった。
「あっあっ! わかんない…わかんない…なんで? なにが…」
「倉持も言ってた…今日は具合悪そうだったって…解剖の時なにかあったのか?」
「な…なにか…?」
解剖…解……青木三穂…母親…頸の扼痕…僕の…僕のものなの…に…
「いやだああああ!!」
僕は飛び起きていた。ベッドの上に上半身を起こし、幸村さんのスーツの胸ぐらを両手で掴んでいた。



