「そんなこと考えたこともないです」
「じゃあ、他人の強さをなぜどうこう言える?」
「それは…」

 それは、みんな僕に耐えられないからだ。

「生きてる人はみんな…淋しいから。淋しい人は僕と一緒には居られない」
「だから死人と一緒に居るのか」
「ええ、死者は充足してます。僕もです」
「俺もこうしてるだけで満足だがな」

 そう言うと幸村さんはフッと微笑んだ。

「君は俺が好きだって知ってるし。それでも拒否も受け入れもしないでそうやって平然としてる。それで十分だ」
「拒否…してますけど」
「え…してたっけ?」
「だから…僕といると死にますから、近づかないでくれってあれほど言ってるでしょ」
「それはヤマアラシのジレンマってやつだろ?」
「は? なにそれ」

 僕の知らない言葉が幸村さんの口から出てきた。

「自分にトゲがあるから近寄りたくても近寄れないってやつだ。君は俺の為を思って拒否してくれてるんだから、それは愛だろ愛」
「確かにあなたの為を思ってます。というか僕に近づく全ての人の為を思ってますのでそれを愛というなら人類愛というヤツです」
「まぁいいさ、それで。愛されてることには変わりない。博愛っつーやつだな。嫌いじゃないぞ」
「…あの、十分なら攻略中とか言わないですよね」
「十分だと攻略しちゃいけないのか?」
「満足ならそれでいいでしょ?」
「いいんだけど…博愛を超えてみたくなるんだな。それにまだ岡本君のことよくわかんねーしな」
「知ってもわからないと思いますよ」
「それは今後のお楽しみだ」
「あ、そうですか」
「フロンティア・スピリットとも言う」
「はあ。あの、話し終わりましたか?」
「まあ、だいたいな」
「今日のテーマは“佐伯陸を死なせないように”でいいんですよね」
「それな」
「約束は出来ませんが」
「いいさ。俺が言いたいこと言ったんだし。とにかく佐伯陸には時限爆弾のようなものがあるって知っておいて欲しかったんだ」
「話は聞きました」
「ありがとよ」
「じゃあ、施錠確認してきますから、先帰って下さい」
「ああ」

 僕は立ち上がって鍵の束を握り、ドアに向かった。ドアノブに手を掛けた瞬間、幸村さんが後ろから僕を抱き締めた。

「死ぬなよ…メスは没収だ」
「勝手な人ですね、あなたって人は」
「ピンチの時は俺を呼べ。独りで苦しむなよ」
「なんか…マッチポンプだなぁ。幸村さんの要望に応えて発作が増えてるのに」
「…だからさ。それも地域の治安のためだ。君は役に立ってる」
「それは、ありがとうございます」
「だから死ぬなよ」
「だから、死にませんよ」
「ならいい」

 そう言うと幸村さんの身体がゆっくりと離れた。

「じゃあな」
「どうぞ」

 握ったドアノブを回してドアを開けると、そのまま幸村さんは帰っていった。ふと僕は、隆が僕をいつも後ろから抱いてたことを思い出していた。