「そのこと、なんか言ってたか?」
「ええ…聞きました。気持ちはわかる、って言ったら、一緒に死んでくれって泣かれました。僕も一瞬持ってかれそうになった。その部分あの人はマズい人です」
「君まで死にたくなっちゃダメだろ!」

 真顔で幸村さんが大きな声を出した。そしてその後、はぁ、と溜息をついた。

「この前も、自分の脚なんか切って…なんでメス置いとくの、家に」
「あ、返してくださいよ、僕のメス。無断で人のもの持って行かないで下さい。無断が多すぎる」
「ダメ。君、ヘタしたら死ぬだろ、ああなると。言えよな、ちゃんと。わかってんのかなぁ」
「死にませんよ。死ねないって言ったでしょ」
「発作的に来るんだ、ああいうのは。だから脚切ったんだろ?」
「あれはそれを止めるためです」
「止めるでも何でもさ…いつかやりそうで怖いんだよ、君も、陸も」

 でもそれは…

「佐伯陸のことは突き放した。僕のことは追い詰めた。結果、二人共いつかやりそうな状態になっている…んですけどね、幸村さん」

 こういう嫌味…いや事実だけど…が、彼に効くのかはわからなかったが、言ってみた。

「逆なんですよ。佐伯陸は追いかけて欲しい。僕は突き放して欲しい。でも逆やったんだ、幸村さん」

 あなたが怖がってることは、あなたがやらかしたことの結果に過ぎない。でも、幸村さんは余裕に満ちながら苦笑して、そして言った。

「いいや。それは違うな」
「なぜですか」
「君たちはその逆をやったじゃないか」
「意味がわかりませんが」
「わかってるだろ。佐伯陸は追いかけない友人を得た。君は継続的な関係を得た」
「得たくて得たわけじゃないです」
「でもそうなってる」
「幸村さんがしなかったことのフォローですよ、これって」
「俺は痛がらせる役目らしいんだな、いつも。避けてるものを目の前に吊るして迫るらしい。無意識だぜ、これ」

 それを伝聞的にでも認識してるとは思ってなかった。決して自覚ではないが。切り口を変えれば、弱みを突くのが天才的に上手いともいう。嫌な才能だ。

「でも、死なれるのは怖いんでしょ? なんで知っててやるんですか」
「さあな。無意識だからな。怖くてもやっちまうんだからしょうがないさ」
「地雷探知機ですね…爆発させるタイプの」
「まあな」

 そういうと幸村さんは机に片肘を置き、頬杖をついて僕を見た。

「信じるべきなんだろうな…」
「なにをですか」
「君らが案外大丈夫なんだってことをさ」
「信じるということの意味を僕は知らないかも」
「なかなか正直だな。皆、知った気になってよく使う言葉なんだがな」
「それから、僕は人の強さを信じていない」
「ああ、それは心配症のママみたいだな。だったら君は自分の強さを信じられるか?」
 
 不意を突く質問だった。それこそ難易度の高い問いといえるだろう。