夕方、僕の携帯に佐伯陸からメールが送られてきた。
『メザシだよ(・∀・)』
というコメントに、東京の学会の会場になっている大学のホールらしき場所にある変なオブジェの写メが添付されていた。何をやっているんだろうか。というかこれは何なんだろうか。その後も1日置きくらいに、他愛もない意味不明に近いメール(『ニートのペレルマンちでキノコの壷焼き食べたい』とか以下略)が送られてくるようになった。返信は一度もしていないが、懲りずにそれは続いた。それでも、返信をくれとかいうお願いはしてこなかった。取説に『用件以外はメールの返信はしません』と書いてあったのを見たからだろう。感心なことだ。1ヶ月に1回は守られるようだ。とか会いたいとか一緒に寝てくれとも書かれてこない。それでも迷惑なのには変わりないが。ということで、仕事のメールとはフォルダを別にした。手数のかかることだ。
翌日からは、いつものような日常に戻った。遺体を堺教授と交代で何体か解剖し、検査に追われるいつもの日々が続いた。自殺率の低いこの県では、異状死体となった自殺者の解剖は更に少ないので、通常、月に1、2体がせいぜいだった。事件性のある屍体は更に少なく、結局この県が年間約130体前後の平均で行っている司法解剖のうち、100体近くは事故死か病死、またはこの前のご老人のように自然死と言えた。というわけで、例の水死体以降、ここの法医学教室には自殺屍体は運び込まれていなかった。僕にとっての平穏な日々となった。
そのうち警察の発表する前年度の犯罪指数の統計が出たが、この県は殺人認知件数が、ある年から1桁でなく2桁になっていることがわかった。だが、屍体の数が増えているわけではない。いままでなら見逃していた犯罪性のある異状死体の解剖率が一気に増えたようだった。前にも触れたようないわゆる『犯罪見逃し等事案』というやつだ。調査委員会の調べでも、わかっているだけで全国で40件以上が報告されているということは、少なく見積もっても実際は10倍以上はあるということだろう。そのうちの今年最初の1件が、例の縊死を事故に偽装した焼損遺体だったということになる。これは自殺だが、死体損傷と保険金詐欺という犯罪行為に当たるものだ。
そんなこんなで元々犯罪の少ないこの県の犯罪率が少しだが目に見えて数字が上昇した。犯罪が増えたのではなく、犯罪を見逃す率が減ったのだ。そしてそれは幸村さんが強行班の班長になる前後の時期のことらしかった。そのことを暴対課の主任が解剖の待機時間に同行した警官と話していた。優秀な人には違いない。最近機嫌が良いらしいと言った後、チラッと僕のほうを見た。なにその感じ。
強行班の運び込んだ遺体もあったので、幸村さんとも1、2回顔を合わせた。だからといって自殺者の司法解剖のないときに僕の家に押しかけてきたり、顔を合わせたドサクサに紛れて物陰でセクハラをしてきたりすることもとりあえずはなかった。僕を犯した時の行為との差を考えると、行儀がいいのかなんなのか、やはりさっぱり僕にはわからなかった。
そして佐伯陸と会った2週間後、浜通りの倉持警部補から教室に連絡があった。



