本当にただ寝たかったらしく、お互い寝る支度をひとしきりやってパジャマに着替えた後、僕と佐伯陸はさっきと同じ格好でベッドに入った。じゃあ、おやすみなさい、と言って僕の胸に頭を乗せたかと思うと、5分もしないうちにスースー寝息が聞こえてきた。やれやれと佐伯陸の背中に回した腕をほどいて天井を見上げた。
増えた。増えちゃいけないのにまた厄介な人が増えた。警察官…大学講師…ああ、なんということだ。この武官と教育者という組み合わせから僕は逃れられないのだろうか。気づけばここの法医学教室に来てから、実家に居た頃のレプリカのような人間関係がいつの間にか構築されていて、僕は変な夢、もしくは並行宇宙にいるような気がした。場所を変えても人生って同じなのか。そうすると幸村さんと佐伯陸が別れてるってことは、実家にいた頃とフィルムが逆に回っている可能性がある。するとこれから司書が現れるのか…そんなことを考えているうちに、いつの間にか僕も眠っていた。
アラームが鳴って目が覚めると、隣に人が居た。ここは一体どこだ…と僕は寝ぼけながら辺りを見渡すと、そこは佐伯陸のベッドルームだった。隣から手がにゅーっと伸び、手探りでアラームのスヌーズを押した。その腕が次に僕の身体に伸びてきて、僕の肩を撫で回した。
「あぁ…居たぁ。ちゃんといたぁ。おはよぉ」
「おはよう」
「すっごい寝た。こんな熟睡したの久しぶり」
「それは良かった」
「ありがとう…ワガママ聞いてくれて。寝たぁ…寝たよ」
佐伯陸はベッドの上に起き上がり、目をこすった。僕はまだ身体が動かないので、そのまま仰向けで目だけ開けていた。
「7時半に家出るんです。朝ごはんシリアルだけどいい? あ…なんでもいいんでしたっけ」
「なんでもいい」
「アレルギーとかもないんですか」
「ないですよ」
「じゃあ、支度したら呼びに来ますね」
「それまでには自分で起きる」
スタスタと佐伯陸が部屋を出て行ったあと、ゆっくり僕は起きた。案外どこでも眠れる自分を発見した。シリアルとコーヒーの朝食が終わり、一緒に出ようというので佐伯陸の着替えを待っていた。しばらくするとベッドルームからこども店長のようなスーツ姿の佐伯陸が出てきた。
「ああ、もう、このカッコやだぁ」
「スカートじゃないんだ」
「皆んなから七五三って言われる。でも学会はさすがに…ね」
「あ、そう」
「出ましょうか。いろいろお世話になりました。また連絡する」
「しなくてもいいけど」
「しーまーすー。メアドと電話番号下さい」
強引に僕から連絡先を搾取したあと、佐伯陸は駅へ、僕は自宅へと向かった。家について部屋着に着替えてから、僕はネットで海洋研究所員の自殺のニュースを調べた。だが、それはどこにも書かれてはいなかった。



