「あのさ…負荷試験まだ続いてるの?」
「ううん。もう本番ですよ」
「ベッドで?」
「ベッドで!」
「あ、そう」
「だって、抱き合ったまま寝てるほうが疲れないじゃないですか」
「ま、そうだけど」
「フィット感高いし。はい、岡本さん上着脱いで」
そう言うと佐伯陸は後ろに回って僕のジャケットを脱がせた。ハンガーにかけた上着を壁際に置いてある木製のハンガーラックに掛けると、僕の手をまた引っぱり、ベッドに腰掛けるように言った。
「はい、寝っ転がってくださいませんか?」
「いいけど…え…あ…」
そう言う間もなく、ほとんど押し倒されるように僕は佐伯陸とベッドに倒れこんだ。
「ボク、男の人押し倒したの初めてかもぉ!」
笑いながらはしゃいでる佐伯陸が僕の肩を両手でつかみ、胸の上に顔を乗せた。僕の顔からメガネがズリ落ちそうになった。
「メガネ外していいかな」
「あっ、ゴメン。気が付かなかった」
佐伯陸はベッドの枕元の宮に、僕が外したメガネを手を伸ばしてそっと置いた。
「岡本さんて…」
メガネを外した僕の顔をしげしげと眺めて、佐伯陸は呟いた。
「メガネ外すと、マリア様のイコンみたいな顔してる」
「イコンて?」
「教会で使うの。聖なる絵」
「キリスト教徒?」
「ううん。ロシアでやった数学の学会で、観光で教会に行った時に見た」
そう言うと、顔に掛かっている僕の前髪を指で分けた。
「あのね、正教会のマリア様のイコンって、どれもなんとなく困った顔してるんだよね」
クククと笑って僕の顔を見て首をかしげた。
「そう言う顔してるの、いま、まさに」
「まぁ、困ってるし」
「困ってるの?」
「わからないとは言わせないけど」
「ごめんなさい。知ってます。でも、困った顔して『しょうがない子ねぇ』って言うお母さんみたい。お母さん、はい、早く腕回して抱きしめてくれませんか?」
「お姉さんの次はお母さんですか」
僕は胸の上の佐伯陸の背中に両腕を回した。確かに寝転んでいる方が腕が余らなくてフィット感があった。抱きしめた瞬間、佐伯陸が大きく息を吸って、そして吐いた。



