僕を止めてください 【小説】




 抱きしめられることしか無かった僕が、誰かに抱きしめて欲しいとねだられているのがとても不思議な感覚だった。試みに僕は今まで抱きしめてくれた人に倣って、両腕を佐伯陸の身体に回してみた。肩が細くて自分の腕が余った。中学生の僕と隆の体格差はもっとあったから、いったい隆はどんな風に僕を抱いていたんだろうと、思い出そうとしたが、思い出せなかった。

「…静か…ですね。岡本さんって」

 不意に佐伯陸が呟いた。

「静か?」
「ほんと…生きてる人と違うんだ…」
「へぇ」
「なんで、死んじゃったの?」
「生きてたことなんてない。僕は生まれつき死んでた」
「そう…」

 佐伯陸は身体を下にずらして、僕の胸に顔を着けた。

「心臓の音…小さい」
「心臓が動いてるのが僕はむしろ不思議」
「ねぇ…性欲とかないんですか? ほんとに。こうしててもしたくなったりしない?」
「しない」
「ほんとに?」
「うん」
「変わってる…ほんとに変わってる」

 すると佐伯陸はそのままズルズルとソファから滑り落ち、なぜか僕の脚の間に入った。そしておもむろに顔を僕の股間に埋めた。

「あの…約束が違うような気がすごくするんだけど」
「試してる…」
「勃たないよ」
「それを試してる」
「あ、そう」

 確かめておかなければならないことを佐伯陸にひとつ尋ねた。

「欲情してるの?」
「してないです」

 それならいいけど、無駄なことを…と僕はそのまま何もせず佐伯陸のされるがままになった。