顔を真っ赤にしながら、また下を向いて小さい声で恥ずかしそうに佐伯陸は僕に訊いた。
「そういうの…ダメですか?」
「アラン・チューリングⅡ世の替わり以上のモノを求めるんだったら契約破棄ですが」
「いえ…兄弟とか…お姉様…とか」
「お…おねぇ…」
「いえ、あの、岡本さんが女っぽいとかじゃなくて…家族とかのスキンシップ的に…あの…恋愛抜きでそういうのいままで無かったし…恋愛抜きでもそういうのできたらボクは結構満足なのではないかって…でも…そんなこと言える人今まで居なかったから」
きわどい選択をしたがる人だな、と僕は思った。
「アランでもダメなときはダメなんです。淋しすぎて死にそうだと…ボクはダメダメな人なんで…でももう浩輔には助けを求めるのイヤなんです…もっと淋しくなるの分かってるし」
「アランより屍体のほうがマシと」
「屍体って…喋ってくれるなら屍体じゃない。興味なくても抱きしめてくれるならそれが今のボクには」
「それで満足できるの? 君は」
「どうでしょうか…」
「君の心は死んでないんだね…まだ」
「完全に殺せるものなら、殺してしまいたいです」
そうだ。ほとんど死んでいる僕にもその瞬間があるくらいだ。殺せるなら殺してしまいたい。この世に自殺の屍体さえなければ、僕は平穏に死にきれるのに。
「わからなくは…ない」
「でもなんで…岡本さんが死ねない理由って…」
「悲しむ人がいる」
「その人のために?」
「そう。それだけ」
「でもそれが大事なのか…自分が楽になることよりも」
「どうだろうね。僕が死にたくなるのはそんなにいつものことじゃない。いつもは…忘れてる。大勢の屍体と一緒に静かに暮らしてる…自殺の屍体以外は僕を困らせない」
「自殺の…」
あ、言い過ぎた、と僕はちょっと後悔した。
「わかるんですよね…でも、困らせるって?」
「…発作が起きる。で、死にたくなる。この件は繊細な話なんでもうやめるよ」
「わかりました…」
そう言うと佐伯陸は僕の隣に座った。
「ボクも困らせてますか?」
「ええ、もちろん」
「そっか…でも…少しだけ我慢してくれませんか」
背の低い佐伯陸は僕を上目遣いで見上げると、そのまま枝のような腕を僕の首に絡めた。額が僕の頬に触れた。
「抱きしめて下さい…お願いします…ボクがどう感じるか知りたい」



