僕を止めてください 【小説】




 プランクトン検査が終わるやいなや、休日の土曜日の朝に電話が来て、緊急の解剖の予定が入り、僕は休む間もなくそれを担当することになった。今週の休日担当は臨床検査技師の鈴木さんなので、プランクトン検査前からずっと鈴木さんとコンビで仕事しているように思った。

「なんか最近僕の休日担当の日っていつも緊急解剖入ってる気がする。なんだか3、4回連続で当たってる気がするんですけどぉ」

 と、準備中になにやら疲れた様子で鈴木さんがボヤいている。堺教授と僕は週交代で休日の臨時出勤に対応している。それと並行して他のスタッフの3人は、3人で週替りのローテーションをしている。3週に1回は回ってくることになる。

「実際3回連続です」
「やっぱり」
「田中さんも先月は2回連続です」
「菅平さん…運がいいなぁ」
「先週堺教授と日曜日解剖」

 疲れているのは鈴木さんだけじゃないと暗に言ってみた。週末は解剖が多い。土日休みにしている意味がない。遺体の受け入れの多寡を曜日ごとにカウントして、統計的に少ない日を休みにすればいいのに…と思うが、教授もスタッフの家族も週末休みだし、大学も休日なので、そういうことには出来ないようだ。僕のように曜日感覚がない生活は皆送っていない。

「容器とか備品の消費多いから発注量増えたよ。去年より解剖数増えたからね。ああ、岡本君は前のこと知らないかも知れないけど」

 鈴木さんは検体採取容器の種類の確認をしながら僕に話し続けていた。相槌も打たないのによく変わらないテンションで話しているなぁと感心した。

「…でも、岡本君と解剖入ってると面白いね。前ならツッコまなかったとこに検査入るよね。経費かかるのに警察もねじ込んでくれるし…特に強行班だとさ」

 いきなり僕の話になった。鈴木さんはなぜかいつもより饒舌だった。

「それに幸村警部補から気に入られてるでしょ、岡本君」
「はい?」

 執刀用具が揃っているか確認をしている最中に、いきなり微妙な話が鈴木さんから振られた。不穏な話をいきなり振られたせいで、僕はつい聞き返してしまった。

「君が来てから幸村さんほんとによく来るし…」
「前からなんじゃないですか」
「前ね…いやぁ…大変だったんだよ。合わない前任がいて」

 前任…前橋という人のことだろうか。

「いなくなった人のことあんまり悪く言うの良くないんだけどね…」

 ということは僕に言うんだろうな…と思いながら、鈴木さんの言うに任せて僕は聞かせてもらうことにした。