さて、その“アルゴリズム”とは一体何かというと、それは「計算方法」のことに他ならない。わかりやすく一般的なものの言い方をすると、「問題の解き方(解く手順)」ということになる。簡単だ。なんでわざわざアルゴリズムなんて知ったような言葉で言うのかわけがわからない。
例えば、沢山のリンゴを数える時に、「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10」と一個一個数えていくやり方と、2個づつ「2、4、6、8、10」と数えていくやり方がある。どちらもアルゴリズムだが、より簡単で計算量の少ないものが優秀なアルゴリズムとされている。となるとここでは2個づつ数えていくのが1個づつ数えるよりも優秀なアルゴリズムと言える。
アルゴリズムはコンピューターの計算を担う。計算はなるべく手順が少ないほうがコンピューターの負担にならない。負担にならなければ、処理が早くなる。早くなれば時間が短縮される。例えば処理が遅いとネットのウェブブラウザ画面はなかなか立ち上がらないが、処理の早いパソコンは一瞬でトップ画面が表示される。処理が早いと遅いのでは、早いことのメリットは大変大きい。早いからこそ「情報を画像に変換してリアルタイム表示」などということが実現可能になる。しかしコンピューターには人間の言葉はわからないので、その計算方法をプログラミング言語というコンピューター語に訳してやる。それをプログラムと言う。
そんなこんなで、その海上保安庁の逆算アルゴリズムというのは、ある物体が漂流開始地点から漂流していくであろう可能性のある無数の点のうちの漂着地点という1点だけがわかっている場合、その1点から遡って漂流開始地点をコンピューターで予測する計算方法のことだ。言ってみれば「帰納法」といえる。多くの観察の結果から類似点をまとめ上げることで、結論を引き出すという論法だ。
この帰納法の欠点は、すべての観察結果を網羅するか、それと同等の論理証明をしない限り、たどり着いた結論は必ずしも確実な正解ではなく、ある程度の確率を持ったものに過ぎないこと、というものである。
同じように、逆算漂流予測もすべての観察結果を網羅することが重要となっていた。その結論は確率的にここが最も有力である、といった回答になる。つまり、漂流シュミレーションの実験回数とその出発位置が増えれば増えるほど、正確さが増すのである。それはとても面倒臭い現場の実地シュミレーション観察とデータ収集が待っている。つまり、GPSの着いたブイをいろんな場所で、しかもいっぺんに何個も投下して、この時刻のこの海流でこの風向風速での条件下で、時間ごとにブイの進路を記録していくといった類のことだ。



