アラームが鳴り、起きると朝で、服は夜のままで下半身は裸で、電気は消してあり、布団が掛かっていた。昨日のことが夢のように感じた。起き上がって眼鏡を探した。いつの間にか外されてた。テーブルの上をよく見ると、そこの真ん中に眼鏡が置いてあり、その下に細長い紙が敷いてあって、走り書きがしてあった。僕は眼鏡を掛け、その紙を手に取った。

“岡本君へ 鍵を外から閉めた。ポストの中に入れてある。次は発作が起きたらちゃんと連絡すること。またな”

 その下に携帯の電話番号とメールアドレスが書いてあった。裏返すとスーパー丸屋のレシートだった。米の値段が印字してある。まぁ、いつも買ってるのと同じだから知ってるけど。僕はそれをそのまま紙をゴミ箱に捨てた。

 全然わかってないってことだ。何度言っても理解しないのは頭が悪いからなのか、異常なほどの楽観主義なのか…関わるなって。

 ふと内股になにか張り付いてることに気がついた。見ると、昨日メスで切った大腿部の内側に絆創膏が貼ってあった。幸村さんが貼ったんだろう。米と言い、変なところにマメな人だと呆れた。そういえば、メスを片付けてないことも思い出した。だが、キッチンの床にあるはずのメスはどこにも見当たらなかった。引き出しにもない。もしかして幸村さんがどこかにやったか、僕が自傷しないように持って帰っちゃったのか…? 余計なことをする。全くわかってない。僕のオナニーの道具を返せ。と、僕は憤慨した。だいたいあれは食料品の袋を切るときとかにも使うのに。まぁ、どうせ職場に行けばいくらでも在庫はある。職場に着いたら忘れずに使い終わったディスポーザブルのメスを滅菌器に掛けて持ち帰るだけだ。

 勝手過ぎる。何もかも自分勝手。

 でも昨夜は忙しい仕事の合間に来たのか、とちょっと言ってたことを思い返した。抜かれたけど犯されなかった。いつもああなると深夜を過ぎても始末がつかないことが多いが、昨日はすんなり早寝してしまった。便利といえば言えなくもないが…

(君のことが好きだ)
 
 ハッとして我に返った。ダメだ。そんなこと言ってる人だけは信用しちゃいけない。一番信用できない。どうすればわかってもらえるんだろう。僕を好きになることが人生の無駄遣いなんだってことを。僕の身体は心と全く一致がないということをだんだんと人は思い知る。いろいろ試行錯誤した挙句、何も変わらないことに絶望している自分に気づく。僕と佳彦のように求めてることが奇跡的に一致したとしても、それもまた絶望に変わりはないのだ。愛と死が共にゴールにある。それ以外に僕の心が存在する場所はない。

 そんなこと、すぐにわかってくれる人はそうそういないか…

 わかってもらえるまで根気が要るな。幸村さん、人の話聞かないししつこいし。隆以来だ、こんなに執着されるのは。司書、自衛官、警察官…公務員受けが良すぎる。意味がわからない。僕は昨日の服を脱ぎ、シャワーを浴びに浴室に入った。取り敢えず仕事に行かなければ。