幸村さんは起き上がると、流しで手を洗った。ぐったりしている僕の側に戻ってきて、僕の唇にキスした。そして床に落ちている上着を拾って着た。

「早くて可愛いな、君は」
「…犯さないん…ですか」
「まだ今夜はこれから張り込みだ。ああ、米、この間の埋め合わせな。米なら文句ねーだろ」
「え?」
「玄関に置いてあるから…わかった、こっちに運んどく。ごちそうさまな、この前は色々と」

 そういうと幸村さんは玄関から米袋を抱えてきた。5kgの袋だ。一宿一飯の恩義としては多いかもと思った。だが、米は経費節減には助かるし、今までの経緯からして、遠慮する必要はないと思考を訂正した。そうだ、米だけじゃなくて僕も食われたのだ。それで、色々とごちそうさまとか言ってるんだろう。

「ここ置くぞ」
「…あ、はい」
「胚芽米だったよな。栄養士のおすすめか」
「ええ、まぁ」

 さすが優秀な刑事だけあって、現場をよく見ているな、とそれは感心した。白米5kgだったらビタミン剤を買わなければならないところだったが。再び僕の隣にしゃがんで僕の頭を撫でた。牛乳のお陰で、イッた後急速に眠くなってきた。

「もう、大丈夫か」
「ええ…治まりました…眠い」
「そっか、良かったわ。じゃあ行くからさ。またな。着替えてから寝ろよ…ああ、今日の午前中の解剖した浜通りの倉持警部補、あのあと県警で会ったわ。自殺の線押しといたからな。聞いたぞ、海洋研究所の話」
「真に受けて…くれてたんですかね…倉持さん」
「まあな…褒めてたぞ、君のこと」

 そう言うと幸村さんはさも嬉しそうに笑った。

「ちゃんとやってくれたんだな…こんなんなるまで」
「大変です…でもやりま…す…」

 眠気で意識が飛び始めた。

「おい、鍵掛けれるのか?」
「……ん…」

 そのまま僕は深い眠りに吸い込まれていった。