それを聞いて彼は僕を抱きしめた。
「松田も言ってたよ。“僕が死体だったらあの子は僕のこと好きになるんだろうな”ってさ」
「それは、そう思います」
「でも、死体はお前のこと好きになんないぜ」
「はい。当たり前じゃないですか」
「いいのかよ?」
「なにか…問題でも?」
彼は僕をマジマジと見た。そして何度か納得したように頷いた。
「お前…すごいな。永遠に片思いだぞそれ」
「そういう風にも言えますね。そうですね。それは言えてます」
「愛されたくないのか、お前…」
それは人生で初めて聞いた質問だった。そんな考え方があったのか。と、僕は新鮮な感慨を感じた。この頃初めてのことが多い。佳彦のせいだ。
「その発想は無かったです。そんなこと考えたことなかったですし…」
一瞬の沈黙の後、彼は僕を抱いたまま爆笑していた。なぜ笑ってるのか僕にはさっぱり意味がわからなかったが。



