鉄道や車への飛び込み自殺は前にも言ったように、せいぜいが全体の2〜3%に過ぎない。これはなぜかというと、致死率が他の方法に比べて圧倒的に低いからだ。しかも自動車は自殺の中でも圧倒的な致死率の低さを示している。電車のほうがやりようによってはまだ死ねる。高速で走り抜ける電車にきちんと当たればいい。もしくは線路にきっちり寝ていればいい。それでは飛び込みとは言わないが、それも飛び込みのカテゴリーで括られる。しかしその結果、遺族に鉄道から億単位の倍賞を求められることもある。家族の死のショックと、賠償金の支払いという重いカセが同時に降りかかってくる。遺族としては地獄のような事態となる。

 自動車への飛び込み自殺には、“特攻”と呼ばれるものがある。これは何かというと、自ら当たって死に、相手の車の自賠責保険から高額の補償金を取り、遺族に遺そうとするもので、保険金自殺と同じ、金銭的な問題で自殺を考える向きの行為である。しかし、保険金を自分にかけて免責期間およそ3年を過ぎて自殺するのと、相手のドライバーを巻き込み事故と見せかけ、その人を犯罪者にしつつ死と引き換えに遺族に保険金を遺す当たり屋特攻自殺とは、赤の他人への迷惑の掛かり方が全く違う。しかし特攻も失敗すれば、死ねないし障害が一生残るなんてことも多く、発作的でもない限り車への飛び込みを考える人は、非合理的で狂気的な“自殺”という手段を取る人の中でも、更に合理性に欠ける主観的な人間であるということが示唆されよう。

 これが自殺かどうかという警察の判断は、この飛び込みした人の遺書の有無や、生前どんな言動をしていたかとか、預貯金はどのくらいあったかとか、家族関係、交友関係、男女関係、仕事上の問題など多角的に判断して、自殺かどうかを決めなければならないのだが、この生活身辺状況調査を怠り、警察は事故現場の状況だけで判断する場合も多い。通常、交通事故のケースでは検視のみで、司法解剖に回ってくることは殆ど無い。ひき逃げの時くらいである。しかし最近はドライブレコーダーが普及し始めているので、運良く(運悪く)ドラレコ搭載の車に当たった場合、不審なな飛び込みは判断され、ドライバーは不起訴になる。事故の偽装を防ぐためにも、ドライブレコーダーの義務付けとかすればいいのに…とこの件についてはよく思う。