「僕は自分の発作が嫌いなんだ…早く収めたいって思ってるんだ…発作だけじゃない…セックスも嫌いだ…自分が生きてることを確認するような行為は全部嫌いだ! 食べることも飲むこともしたくない…死ねないから生きてるんだ…僕は自殺の屍体が嫌いだ…僕が一番望んでいることをやって僕の目の前で見せびらかして先に逝って僕を置き去りにして…僕がそうなりたいのに! あそこに、解剖台に寝ているのは本当は僕なんだ!! それなのに…それなのに…それより何度も言ったでしょ! 僕のそばにいたら危ないんだって! なんでわかんないの!」

 僕は泣いていた。それを見られたくなくて、テーブルの上に突っ伏した。

「…ちゃんと仕事はします…だから今日は帰って下さい。僕もあんなことがあって混乱してるんです。これ以上はもう無理です…貴方を恨んでしまいそうです…もう今日は勘弁してください…」

 切れ切れに呟いた言葉がどれだけ届いているかは不明だったが、それを聞いて幸村さんは僕の前にしゃがみこんだ。

「わかった…ごめんな。なんだかわからないが…」

 少しの沈黙の後、テーブルの上の食器を片付ける音がした。そのあと流しでそれを洗っているような音に変わった。そのうち水の音が止んだ。

「じゃあ帰るわ。ちゃんとなんか食えよ。またな」

 まだテーブルに突っ伏して泣いている僕の側に立って幸村さんはそう言うと、僕の頭を2、3回撫でて玄関に向かっていたようだった。ドアの開く音がした。それから静かに閉まった。

 僕はそのあともずっとテーブル伏せたまま泣いていた。泣きながら隆のことを切れ切れに思い出していた。僕を抱いて、苦しんで、死にきれなくてユニットバスで吐き続けている姿が焼き付いて離れない。もういい。もういいから…僕はなにもあなたに望まない。だから僕に関わらないで。

 関わるな。誰も。

 夕方になるまで僕はそうやっていた。それからのろのろと立ち上がって冷蔵庫から出した牛乳を飲んだ。泣いたのなんて何年ぶりだろう。最後に泣いたのは寺岡さんのベッドで隆に逢った時だったっけ。

 ふと見ると流しの脇の食器の水切りカゴに、洗ったお椀や茶碗が並んでいて、塩のビンがその前にポツンと置いてあった。なんでこんなことになっちゃったのかと、僕はしばらくそこに佇んでいた。