僕を止めてください 【小説】





「だめじゃん、嘘ついたら」

 終わった後、うつ伏せのままぐったり虚脱した僕の耳元で幸村さんが囁いた。脱力感に言葉も出ない。

「憎まれ口叩くクセに本当にダメな身体してるよね…可愛いな、そういうとこ」
「…う…」

 ウザいことを言われて言い返したいのに、物を言う気力もなかった。腹が立つし自分が情けないし、もう頭の中は滅茶苦茶だ。裏切り者…と熱っぽくて不愉快な自分の身体を心の中で罵倒してもそれはいつもだ。今更言っても仕方のない事実だ…はじめからそれで苦しんでるわけだから。

「エロくて良い身体だ。よく泣くし…」

 幸村さんが2回イク間に結局また僕もイカされた。普通のセックスでイクなんて考えられない。こんなことではまた変な期待をされて、あとからくる絶望感で墜落されるのが落ちだ。こんなことなら始まる前にベッドから蹴り出して、部屋から追い出せばよかった…そんな腕力があるならばだが。

「ハラ減った」

 性欲の次は食欲のようだった。一方が満たされたんで思い出したんだろう。

「昨日から食ってねーよな、そう言えば。今何時だ?」

 僕の部屋には時計は掛けていないので、幸村さんは寝たままベッドから床に身を乗り出して、自分の脱ぎ捨てたスーツのズボンの中から携帯を取り出して時間を見た。

「もう11時か。起きろ。なんか食うものある?」
「……」
「おーい、岡本君生きてるかー」

 うるさいので、僕は倒れたままやっとのことで手だけ動かしてキッチンの方を指さした。昨日の残りの味噌汁と冷ご飯が鍋と炊飯器にある。勝手に見つけて勝手に食えるもの食ってくれ。

「ダイイングメッセージかよ…あ、風呂場借りるぞ。君も一緒に連れてってやる。どうせ腰抜けてるんだろ?」
「……」
「おい、なんか言え」
「…動け…ない」
「まぁ見ればわかるが」

 有無を言わせず僕は無理やり引っ張り起こされ立たされて挙句肩抱きにされて、風呂場に連れて行かれた。シャワーを掛けられているうちになんとか身体が動くようになり、這うように風呂場を出た。