僕を止めてください 【小説】





 「好きか嫌いかってわかんないです。松田さんは僕に好きって言って欲しいんですか?」
「…みたいだよ。でもお前に何度聞いてもわからないって言われてキレたんじゃね? なんか俺に電話掛かってきた時、すんげー執念深い声出してたわ。好きな子、他の男に犯させるって…あいつもほんとにドSだよな。受ける俺も俺だけどな。でもお前、俺好みだわ」

 そう言うと、ソファに座ったまま彼は僕を抱きしめてきた。そして僕の股間を空いた手でまさぐり始めた。

「お前拒否らねーのな。何されてもいいのかよ」
「べつに…」
「なんかこうさ、嫌悪感とか愛着とかないの?」
「特に」
「痛いことしてもいいってか?」
「どんなことですか?」
「殴るとか」
「さあ…どうでしょうか」
「じゃあ、殴っていいか?」
「ええ」

 そう言った途端、不意に右側からパァンと頬に衝撃が走った。顔が体ごと左に弾かれていた。

「松田がイラッとするの…なんかわかるわ」

 平手打ちされてソファから落ちそうな僕を、彼は受け止めながらそう言った。

「俺のこともなんとも思わねーんだろ?」

 ヒリヒリする頬を押さえながら僕は佳彦に言ったことを、彼にも繰り返して言った。

「僕…生きているものに興味が持てないんです。だから生きてる人間にも、好きとか嫌いとか思ったことないんです…ごめんなさい」