「わかった。なにも見てない。俺は何も見てないから。だから俺を拒否るな」
「触らないで…気が…気が狂いそうだ…」
「発作の…意味がわかった」
「やめて…わかるもんか…わかるわけない…もう帰ります」

 わななきながら僕はかすれた声で頼んだ。力の入らない両手で身体を起こそうと半身を起こした。だがそれ以上もう動けなかった。

「わかったよ…なにも俺は見てない。…けどわかった。君がどうなるのか。あのときも、こうだったんだな」
「…もうやめて」
「いつから…こんななんだ?」

 僕の前に片膝をついて、悲しそうな声で幸村さんは僕に尋ねた。もう責めている口調は消えていた。僕は言いたくないことをなぜだか答えていた。

「…中2」
「なんでこうなった」
「自殺の写真集を…貸してくれた男の人がいた…本を見せられて…そのあと…首を絞められて…レイプされた…それから自殺の屍体がわかるようになって…もう…戻んなくなった…キッカケはそれ…でも…ほんとの原因は…もっと前…」

 僕は目を閉じた。

「…父親の自殺」
「わかった。もういい。もういい」

 そう言うと、性懲りもなく彼は僕を抱き起こそうと肩を掴んだ。僕はそこから逃れようともがいた。

「触らないで! わかってるならもう放っといて下さい! 早くどっか行ってくれませんか? こんなの見て…全部正解だったところでもう見損なってるんでしょ? こんな気の狂った人間が貴方の大事な仕事を左右してるって…全部わかったんならもういいでしょ? 僕は今後もまっとうに仕事する。前任者の分まで僕は信頼を取り戻せるまで責任持って仕事する! 貴方が何を怒ってたのかよくわかりました。誤解されるのもわかった…だけど誰に言えるんだ…誰に…こんなこと…僕は…狂ってるんだ…これと…引き換えなんだ…でもそれと引き換えに…僕がこの世にいても許されるって…僕は思いたいんだ…」

 肩を掴まれた手を振りきろうともがけばもがくほど、僕の身体は幸村さんの腕に拘束されていった。背中から大きな身体で羽交い締めされたかと思うと、彼は僕の身体を引き寄せて背中から抱きしめていた。錯乱するほどの痺れが僕を襲った。