「なんでだよ! 止めなきゃ顔からツッコんでただろ!」
「触るな!…壊れる…気が狂いそうなんだ…触るな…」
僕はハッとして両膝を立てた。勃っているのを見られてないかと思うと血の気が引いた。ドアに後頭部を押し付けて目を閉じ、襲ってくる性感に耐えながら、身体の両脇の床に手をつき、その姿勢でようやく身体を支えていた。僕が下がったせいで写真が離れた場所に遠のいていた。
「こ…こっちに…持ってきてくださ…しゃ…しん…」
「もしかして君の発作って…」
どこか気づいたような幸村さんの言葉を僕は遮った。
「やめ…て…!」
「これか?…あのときのあれは…」
「見なかったことにしてくれって…言ったはずです…お願いだから…」
荒い息の中で、もう隠せている気もしなかった。幸村さんがドアの際の僕の前までコートごと写真の仕分けた山を引きずってきた。怒りに満ちていたはずの彼は、眉間に皺を寄せ、何故か苦しそうな顔で僕を見つめていた。
「見えるか」
「見え…ます…つっ…続けます…つぎ…ひだりに…つぎも…ひだり……つぎ…うあああっ!」
煉炭による一酸化炭素中毒自殺。体全体の震えが止まらない。さっき抱きとめられた時に触られた部分が刺すように熱い。僕は歯を食いしばり、写真から顔を背けた。
「みぎぃぃ…!」
「君…!」
「僕を見ないで! …つぎ…つぎを…」
言いながら涙が溢れていた。感情と性感が混ざって目から溢れているみたいだった。そんなものを見ても、苦しそうな顔をほどかないまま幸村さんは途中でやめることはなかった。
「あぁ…あぁ…あぁ…みっ…みぎ…つっ…つぎ…くはっ…」
あまりの辛さに僕は股間に両手を挟んで、座ったまま身体を前に折り曲げていた。あと…あと10枚足らず…それで解放される…
「ひだり…そっそれ…ひだ…り…それ…も…ひだり…」
最後に差し掛かって、焼死体が続いた。朦朧とする意識の中で、僕は必死で仕分けを彼に告げ続けた。
「それ…ひだり…そ…あ…」
その中からの、いきなりの焼身自殺だった。灯油をかぶり、着火した彼は自分のやったことを激しく後悔していた。苦しい助けてと、皮膚を舐める炎の中で気が狂ったように走り苦しみ悶えていた…今の僕のように。
「…助けてぇ…たすけて! …熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!熱い!!」
耳の中に響く言葉が知らないうちに声になって出てしまっていた。僕は頭を抱えたまま天井を向き、そう叫んでいた。
「どうした!?」
「叫んでるんです! この人叫んでるんです! 僕の耳の中で叫んで…ああああああっ!!」
信じがたいほどの悶絶感。
「この人は生きたいのに! 生きたいのに! なんでこんななの!? 生きていたいのにぃぃ!!」
僕は耳をふさいでコートの上に倒れこんでいた。まだ…まだ終わらない…あと少し…あと…少しなのに…



