僕を止めてください 【小説】





「すみません。今回の僕のせいで警察との関係が悪くなる可能性あるってことですね」
「警察じゃなくて幸村君とね。僕も最初の頃彼とは色々あったんだわなぁ…」

 はぁ、と教授はため息のようなものをついた。そんなに大変だったのだろうか。あれを年上の堺教授にかましたということだろうか。いきなり間合い1mにまで詰め寄って。

「すると幸村さんがいつも先手で攻撃なんですかね」
「まぁ、攻撃っていうのは少々言い過ぎだけどね。彼の捜査勘が故ってところかな。いい意味でしつこいから、彼。それでノンキャリでも検挙率高いんで無試験で警部補だからさ。自分のイメージ通りに捜査進めたいわけよ。それが検挙率に繋がってるって自信があるっていうことなんだろうよ。まぁ、認めざるを得ないよねぇ、事実そうなんだから」

 幸村さんと付き合いの長い堺教授の分析はかなり正確だったと思われた。

「君も自分のイメージ通りに解剖進めたいタイプだろ?」
「はい、まぁ、そうですね。すみません」
「似てるんだよ。時として大いに反発するんだそういうのってさ。だってお互い自分のやり方でやりたいんだから」

 言われてみれば、そうなる。僕と幸村さんが似てる…性格が違いすぎてわからなかったが。

「その発想は無かったです」
「自分じゃわからんもんさ」
「ええ、まぁ…」
「じゃあ、これで話はおしまーい。お疲れ様、岡本君。休んでた間はありがとうね」
「いえ…ご迷惑おかけしました」
「まあ、いいさ。色々経験して失敗もしてくれないと、教育にならないだろ、君」

 では失礼します、と言って部屋を出て行こうとすると、教授があっそうだ、と僕を呼び止めた。

「なんですか?」
「幸村君がまた聞きたいことがあるから近々来るってさ。伝えておいてくれって言われてたわ」
「…はい。一応聞きました」

 三度目だ。三度目というのは仏の顔とか正直とかが関わってくる局面であろうと、僕はどんよりした気分で推測した。つまり、どちらに転んでも誤魔化しは効かないという先人の教えるところの意味だった。そしてその三度目は意外なほど早く到来した。