僕を止めてください 【小説】




 傍若無人に入って来た割に幸村さんは僕をチラッと見て、頭に片手をやって黙っていた。

「なん…ですか?」

 黙っているので、僕は助け舟を出した。早く用件を言って早く帰ってくれればいいのに。

「例の…焼死体の旦那の奥さん、自供した」
「ああ、そうですか」

 そうなるよな…と、少し冷めてきたコーヒーを僕は一口すすった。まだ熱かった。

「君ともいまんところ関係無いようだな」
「だと思いますよ」
「今回は俺が先走った。すまなかった」
「ああ…良いですよ。お疲れ様です。迷惑ですがそれは刑事としてのあるべき姿勢だと思います」

 素直に謝られて面食らいながら、僕は思ってたことをそのまま言った。

「まあ、そう言ってもらえると助かる…だけどさ」
「はい?」
「気になることがあるんで、ちょっと聞きたいんだけど」
「なんですか?」
「仕事何時に終わるの?」
「日誌書き終わったらですが…」
「待ってるから書いちゃってくれる?」
「待ってるって…ここで?」
「ああ。すまないけど待たせてもらうわ」
「なにが気になるんですか?」
「終わってから説明するから、仕事終わらせちゃってよ。コーヒーもらって良い?」
「はぁ…ご自分でどうぞ」

 いつもの強引な彼のペースに乗せられて、勝手にインスタントコーヒーを作ってる幸村さんを尻目に日誌を書いた。自供が出たのと素直に謝られたのとで、僕は少しホッとしていた。20分後に終わった頃には、コーヒーがいい感じでぬるくなっていた。コーヒーを飲み干してシンクでカップを洗った。

「幸村さん、飲み終わってます?」
「ああ」
「カップ下さい」
「ああ、すまん」

 2個洗い終えて、僕はおもむろに幸村さんの方を向いた。