僕を止めてください 【小説】




 いきなりの「身元が判明しましたので、遺体を引き取りに行きます」という有無を言わせない警察の言いっぷりに、僕は少々戸惑った。「どちらに移送するんですか?」という問いに、タナベとかマナベとか名乗った警部は「東京です」と言った。

「そっちで捜査中の事件がらみだということがわかりましたんで、引き取り先は機密事項なんで今は申し上げられんのですわ。明日の昼過ぎに担当のもんと輸送車を回すんで、遺体と今までの鑑定書と資料全部揃えて欲しいと先方からの指示があってですねぇ」
「でもそれは裁判所の許可がないと…」
「それは取ってあります」
「…それなら…わかりました。こちらも予定がありますので、急なことですから明日の昼に間に合わないことも考慮して頂ければと思いますが、いかがですか?」
「それは先方に伝えておきます。ではよろしくお願いいたします」

 一体なにが起きたかは「機密です」と言われたら、はいそうですかというしかない。射創の彼はまだこの世から解放されないようだった。裁判所からの許可も下りてしまっているようだし、とにかく早急に準備を始めなければならない。臓器のサンプルから解剖時の画像、X線画像、未完成の鑑定書に至るまで、全部を移動するということのようだ。レアなケースと言えた。