廊下の突き当りも黒いガラスのドアだった。そこを躊躇なく彼は入っていく。ドアの向こうはバーだった。多分、バーというものだろう。長いカウンターがあって、カウンターの中にはマスターのような人と、従業員が飲み物を作ったり、グラスを洗ったりしていた。客は2人だった。暗い店内は、そんなに広くはなかったが、その奥の衝立の向こうに、部屋があるようだった。
「はい、鍵」
「ああ」
マスターらしき人が、何も言わないのにカウンター越しに彼に鍵を渡した。
「あいつ来てる?」
「まだ。お前ら早かったからさ」
「あ、そう。じゃあ、あっちで待つわ」
「この子…高校生?」
「いや、中学生」
「外道だな」
「知ってるだろ。むこうになんか飲むものとか持ってきて」
鍵をくるくる回しながら、彼は僕に目配せをすると、慣れたふうに奥の衝立の裏に入っていった。僕も後を追った。中は部屋が仕切られていて、その中のひとつに僕達は入った。
「待つんだってさ…なんか変な感じだ」
「誰か来るんですか?」
「ああ、来るよ…」
そう言うと、なにか続けるように彼の口が動いたが、それは声にならなかった。
「まぁ、座るか。そこのソファどこでも」
ノックの音が聞こえて、従業員が飲み物を持って入ってきた。僕が座った前に薄い黄色の炭酸を置いた。彼にも同じものだった。
「ジンジャーエールかな。飲める?」
「初めてですが」
冷えた炭酸が喉に滑りこんでいく。
「飲めます」
「ああ、嫌いなもん、無かったんだっけ」
「はい」
するとすぐにまたノックの音がした。



