一晩経ってみると、ずいぶん大層なことを自分がフカしたな、と、前日の幸村さんとの会話を朝、歯を磨きながら思い返していた。昔からうんざりするとつい口が滑る。寺岡さんともずいぶんそれでやりあったな。言わなくていいことまでよく言っちゃった…そんなことを思い出していた。

 案外僕は、自分の能力のことを否定されるのが不快なんだ、というのも気がついた。とはいえ幸村さんは否定したわけではない。そんなの知らなくて当然だし、知られたいとも思わない。わざわざ言うこともなかった。以前、隆が“オカルト”と称して信じなかった時も、そもそもそんな能力があることを知った佳彦との最後の夜の会話でも、僕はそこにだけは自信があった。こんな大きな代償を払って成立している特技なのだ。自信くらいは感じてもバチは当たらないだろう。だってもう既に当たってる。人生の初動において。

 問題は、変に勘が良くて、いきなり間を詰めてくるあの人の距離感だ。僕が人を案じて折角閉じて殻に籠っているというのに、その封印を切って、パンドラの匣を開けるような行為を知らずにやっているのだ。まぁ仕方がない。あやしく見える僕の行為が偶然重なって、まるでなにか真相があるかのような錯覚を抱いたとしても、それは職務熱心なだけで、僕が迷惑に思うと思わざるに関わらず、雲のような幻覚を霧散するまで追いかけるのが警察官としての義務だ。幸村さんは鬱陶しいだけで、一向に悪くはない。むしろ賞賛されるべきだろう。