あれこれ言うだけフラグが乱立する気もしないではなかったが、面倒になった。どのみちどんなに調べたところでなんの証拠も出て来るわけがない。バカバカしくてやってられない。だんだん夜も更けてきて、僕は疲れもあってかとても投げやりな気分になってきた。

「僕は…言っときますけどね…捕まっても別に構わないんです。冤罪でも何でも好きにやって下さい。死刑なら願ったり叶ったりです。その替わり、僕と同じように自殺とその他の死因が一瞬で鑑別出来る法医学者でも監察官でも呼んでこれるなら呼んでくればいいんじゃないでしょうかね。この特技が何の上に成り立ってるのかなんて貴方には関係ないでしょうし…でも別にやめてもいいんです、僕はね。その替わり僕をブタ箱かあの世に送ったアカツキには未解決事件の捜査資料置く棚増やしといて下さいね!」

 僕は人生初の捨て台詞のようなモノを吐き、幸村さんを無視して立ち上がり、デスクに向かった。立ったままディスプレイの鑑定書のページをフォルダに保存して名前を打ち込む。黙りこくった幸村さんを尻目に僕はパソコンをシャットダウンし、資料を鍵付きの引き出しにしまい、白衣を脱いだ。

 帰ろう。寝るんだ。明日は堺教授出てこれるのかなぁ。

「わかった」

 黙っていた幸村さんがポツリと言った。

「なにを?」
「今日は帰る。また今度な」
「今度の意味がわからないですが」
「また会おうぜ」
「あ、そうですか。お疲れ様です」
「今度はここじゃなくて、俺の縄張りでな」
「はぁ?」

 僕が聞き返すと、幸村さんはニヤッと笑って言った。

「会いたいって言えばいいのに」
「いえ、別に」

 言下に否定したその言葉に顔色も変えず、じゃあな、と言って幸村さんはドアから出て行った。俺の縄張り? 警察署か? それとも自宅?

(岡本君…俺のこと、好きなの?)

 新しい。ある意味新しい。佳彦とも隆とも違うその強引さに、僕はまたしても変なところで感心していた。さて、今度はなんの今度だろうか。気が滅入る。僕はコートを着て、冬空の下、家路についた。