僕を止めてください 【小説】





 日曜に二人で出かける約束をした。佳彦といるとよく約束をさせられる。あまりない経験なので、言われるまま、僕は待ち合わせの場所で10分前から待っていた。いつもの黒いシボレーが近づいてきて、窓が開き、彼が顔を出した。

「早かったね」
「そうですか?」
「助手席乗って」
「はい」

 いつしか高速に乗っていた。随分遠くに行くんだな、と、僕はどこに行くのかも訊かずに助手席で景色を見ていた。いつもよく話す彼は、今日はあまり話さなかった。

 40分くらいだろうか。町を抜けてまた大きな繁華街に入った。高速を降りて行く。太い道と細い道を何度か繰り返して行くうちに、あるビルのパーキングに入った。

「着いた。降りて」
「はい」

 言われるまま、車を降りる。彼が手招きして僕はそれに付いて行った。パーキングを出て、少し行くと黒いガラスの入った店のドアの前に彼は立った。その後ろに着いた僕に、彼はふりむかないままで言った。

「なにも訊かないの?」
「訊いたほうがいいですか?」
「これからさ…なにが起きてもいいの?」
「さあ、わかりませんけど」
「じゃあさ、なんで付いて来たの?」
「一緒に出かけようって言われたからです」
「悪いけど、もう君の責任だからね…」
「わかりました。そうします」
「…だから…ちっ…」

 彼はなにか言いかけたが、やめて舌打ちをした。そしてドアを開けた。シンセの効いたテクノっぽいうるさい音楽が流れていた。奥まで長い廊下。間接照明で廊下は暗かった。