冷蔵庫…とにかく冷蔵庫のフリーザーの中に保冷剤が入っている。それを取りに行かなければ…
部屋の対角線にそれは置かれていた。しかし、部屋を再び見渡した時、すでにその焼死体は焼死体ではなくなっていた。焼けて黒くなっているその首の回りに電気のコードが巻かれ、天井からぶら下がっている姿が僕の脳裏をかすめた。
縊死…だめだ…これはだめ…これは…焼死体じゃ…ない…自殺をカムフラージュするための…焼損死体…
僕はシンクの縁を伝って解剖室の反対側に向かった。誰か来る前に早く止めなければ…そう思えば思うほど身体の震えがとまらないほどの性感が襲ってくる。久々の不意打ちの発作に僕はうろたえていた。対処の手順が欠落しているのもそれを手伝っていた。なぜ? なぜミントのスティックがない? どこかに落としたんだろうか? カバンに入れた覚えもない…一体どこへ?
冷蔵庫の扉にしがみついた時には、立っていられずに、僕はその前で座り込んでいた。幸いなことにフリーザーが低い位置にあるタイプの冷蔵庫だった。僕は座り込んだまま引き出し状のフリーザーを開けた。僕の仕込んだ保冷剤が4つ、その中にあった。おぼつかない手でそれをつかむ。両手にひとつづつしか持てない。それをポケットの中に詰め込む。更にもうひとつ手に取ると、直にベルトの内側に押し込み、ボクサーブリーフの中にそれを滑りこませた。キーンと冷えきった感触が素肌を刺し、僕は思わず吐息を漏らした。
「くっ…はぁ…」
目を閉じて僕はしばらくそこで座り込んでいた。参った。それ以上に自分の不用意さを訝しく思った。なぜ今更このことを忘れてこの場に臨んだのだろう。あとで分析しなければ。まだ作業は始まってもいない。ここの職場に来てからは、自殺の遺体でもこんなひどい事態はそうそうなかったのに。
保冷剤のおかげでゆっくりと火が治まっていこうとしていた。立てるかも知れないと、冷蔵庫の取っ手に手を掛けて膝に力を入れた瞬間、いきなり後ろから勢い良くドアの開く音がした。
「岡本君、おつかれさん!」
「あ…え…?」
僕は振り向いたまま、茫然とその来訪者を見つめていた。それはなぜか幸村さんだった。



