「わからないよね。そう、君はわからないんだ。なにもかもわからないことだらけ! じゃあ、僕がわからせてやるよ! 君が僕にしかなついてないってことをさ!」
そう言うと彼は不意に我に返ったように、僕の髪を離した。そしてその手を自分の額に当てた。そのまま彼はソファに仰向けに倒れた。
「ごめん。でも…本気で…やっちゃうかも」
「なにをですか?」
「君を僕以外の誰かに落としてもらうってこと」
ああ、そういうことか。と僕は納得した。再現性の問題なんだ、これは。僕が松田さんの絞めだけに反応すれば僕は松田さんの固有の行為に快楽を感じているということになる。でもそれにはなんの意味があるんだろう。僕はそこもわからなかった。
「そうすると、なにがわかるんですか?」
「君はバカなのか、裕」
「僕が佳彦にだけ反応するかどうかが知りたいんでしょ?」
「わかってるじゃない!」
「でもそれに何の意味があるんですか?」
それを聞くと彼は愕然とした顔をした。口が半開きになったまま閉じなかった。
「わからないんです。教えて下さい」
そう僕が言うと、少し経ってから震えた声で小さく答えが返ってきた。
「…言いたくないな」
「なんでですか?」
「言わなくても…わかって欲しいからだよ…いや…君から…言われたいんだよ」
「僕は…なんて言えば…」
「いい、もういい。もういい…もういいよ」
僕はお姫様のように横抱きにされてバスルームに連れて行かれた。二人で黙って互いの身体を洗った。互いの体液が水に解けて流れていく。彼が僕に不意に口づけた。僕は黙ってされるがままになっていた。



