ヴァニタス・ヴァニタートゥム!

 頭蓋骨の代わりに僕は
 解剖書を抱いて大学の中庭を行く
 生は短く、死は長い

 “空なるかな、空なるかな、一切は空なり
  すべてが塵から出でて、塵に帰するのだ”

 僕は死者を完全に死に帰す仕事をする
 死者よ、永遠の中で
 僕は君たちと共にある

 ヴァニタス…ヴァニタートゥム…







「…で、その二人は結局どうなったの?」

 と、ベッドの中で裸のままお互い浅い眠りを行き来している合間に、幸村さんは僕に聞いた。

「いろいろあって…でも付き合ってる。まだ付き合ってますよ」
「へぇ。でもその教授先生は…すごいな」
「なにが?」
「元自衛隊の空手使いに殴られるって、半端ない痛さだよ、普通」
「うーん…それも欲しいって言ってたから…彼になら殴り殺されてもいいって」

 幸村さんは不意に黙ると、僕を後ろから抱いた。裸の肌が熱い。耳の中にかすかにノイズ。僕の後頭部に髪の上からキスして、彼はおもむろに囁いた。

「岡本は強いな…そんないろいろ抱えて…正直驚いた」
「強くないです…社会人としてちゃんとしてるフリしないと、お父さんが死ぬから」
「いい枷だ。これからも社会貢献しろよ。才能のある奴の義務だからな」
「なんとか」
「…根掘り葉掘り聞いてごめんな…」
「いいですよ。別に」

 ふざけた口調だった幸村さんが急に神妙な声に変わった。

「知りたくなった。なんだか知らんけどな。知らないと岡本のことがさっぱりわからない」
「だいたいわからないですよ…知ったところで」
「ドライだなぁ。いつもだけど」
「根掘り葉掘り聞いてわかったでしょ。僕が相手していいのは死人だけ。生きてる人は…どっかに行って欲しい。危ないから」
「俺はなんで居ていいの?」
「…ホントは良くないんです。それに居ていいなんて一言も言ってない。こうなって1年ぐらいですからね…リミットが近いです。でも幸村さんて…しつこいから」
「…言われた。俺の刑事としての最も崇高な美徳をしつこいって…お前、俺を何だと思ってるんだ!」

 幸村さんは笑いながら僕の頭をホールドした。犬にじゃれつかれてるような錯覚に一瞬陥った。