「でも…あのとき…帰りたかったんだ…ほんとに…あそこに帰りたかったんだ…」
「裕…」
「僕が松田さんから見せられてたの…本当の父親の…最後の姿…僕ね、見捨てられたんだ…僕が先に行くはずだった死の世界に先にお父さんに行かれちゃった…僕はこの世に放置…だから僕は…あれを見ると…この世に引き戻される」

 それを聞いて隆はゾッとした顔で呟いた。

「お…俺は…同じことしたのか…お前のほんとのオヤジとおんなじことを…」

 ああ…そうか。僕はその時悟った。僕が本当に死神であることを。

「同じように…皆んな繰り返す…僕がお腹にいたからお母さんは死んだんだ。その次は父親…その次は…隆…寺岡さんだって…本気で死のうって思ってた…松田さんはそれで…逃げた…逃げてくれたんだ、僕から。でも…逃げた松田さんすら…もう少し…狂ってるって…」

 僕は自分を自分で遮断していたことを正しいとその時思った。家でも学校でも誰にも見られず語られず、気配を消して見えないように過ごす。誰も僕がそこにいると気が付かないように。生きているものに興味を持てば、それは死の一瞥となるのだろう。僕は今の家族に興味がないことを理解した。興味を持てば、死んでしまう…僕という観察者の開ける箱は…死んだ猫しか入ってはいない!

「あっ…」

 そしたら。

「母親が…いまの母が危ない…」
「裕、またそんなオカルトじみたこと言うなって!」
「オカルト? オカルトだろうがそうじゃなかろうが事実そうじゃないか! 皆んなそうなる…隆だって、またどうなるかわからないよ!」

 隆は泣きそうになっている僕を引き寄せた。そしてまた、後ろ抱きに隆の脚の間に座らせた。

「じゃあ、俺をもう見るな…名前も忘れろ…得意だろ? でも俺はお前を見るのはやめねぇ。それでもあんまり今までと変わらねぇけどな」

 そう言うと隆は後ろから僕を抱きすくめた。いつもの包まれている感覚に僕は胸がいっぱいになった。

「これがいい。結局このかっこうが一番しっくりくるんだ。お前は俺を見ない。でも俺はお前を抱いてやれる。お前が両親のトラウマ治せるまで、こうやって抱いててやる」
「隆は…バカだよ…なんで…やめないの?」
「ああ。お前がいっちょまえになるまではな。だって、お前の今の母親だってずっとそうしてるんだろ? 親ってのはそういうもんらしいぞ」

 僕はハッとした。今の母も?…今の母も…ずっと…