僕を止めてください 【小説】





「俺はそこまで信用ねーのか」

 あるわけがない。

「…ないよ」

 だってあなたは…僕と死のうとした…

「まぁ…腹立つけど…仕方ねぇよな…前科1犯だからな俺は」
「もう…やめて…よ」
「俺の事考えてどうすんだ…傷ついてるのは…お前なんだぞ」
「違…う…」

 僕がどれだけ隆を追い詰めたか、忘れたのだろうか?

「違わねぇよ」
「僕じゃ…ダメなんだ…って…」

 どうしようもなくなって、僕はその腕から逃れようともがいた。

「行くなよ」
「離してよ」
「正直になれって!!」

 いきなり僕は抱きしめられていた。やっぱりこうなるんだ。僕がいるだけでまた…

「ダメ…だよ…」

 ものすごく切ない気持ちに、僕は胸を裂かれそうだった。言葉が喉から上がってくる悲しみの固まり押しつぶされて、それ以上なにも言えなかった。唇が震えた。すると隆が不意に笑った。

「ばーか。いいんだよ…裕…俺はお前のオヤジだろ?」

 それを聞いた瞬間、僕はそれまで我慢していたなにかがプツッと切れたような気がした。切れたところからその思いが止めどもなく溢れて、どこをどうかき集めようとしても、それは穴の空いた器から漏れていく水のように、その気持ちを元に戻すことは出来ないことだけがわかった。

 ずっと、こうして欲しかったことに。こうして欲しかっただけだった、そのことに。

 僕は自分に失望した。結局なにも変えられない。自分の気持ちが止められない。ダメじゃないか。こんなのダメじゃないか、と。涙が出てきたのに、胸が詰まって切れ切れな泣き声しか出てこなかった。

「辛かったって…言え。会いたかったって言え。俺に慰めて欲しかったって…言えよ…なぁ…裕」

 そう言うと、隆は僕の頭に大きな手を乗せた。

「恋愛とか性欲とか関係なくな、俺はお前が辛いのは嫌なんだ。なんでそう大人になろうとするんだ…お前自分の年わかってんのか」

 年? 大人? 関係ない。そんなの関係ない。僕はただ、あなたが傷つくのを見たくないだけだ。そしてなんで傷つくかというと、僕が傷つけているからだ。そしたらどうしたらいいか、わかるはずだ、隆。僕は隆の手を掴んで引き剥がそうとした。