「なんで…隆がいるの? 寺岡さん…どこに居るの?」

 僕はなにかとんでもなく僕の望まなかったことが起きている気がした。

「ソファで寝てるわ」
「なんでここに居るの? なにか寺岡さんから聞いたの?」

 隆の顔を見られなくなり、僕は背中を向けた。そして一縷の望みをつなぐために、隆をごまかそうと平気なふりをして言い張った。

「…いやだな…僕は…僕はなにも…なにもない…心配しないでよ…なんでもないから…寺岡さん、大袈裟なんだ…」
「全部聞いた」
「えっ…」
「全部聞いたんだ…あいつから」
「うそ」
「ほんと」

 あれだけ言わないでと言った約束を、あの人はその日のうちに覆したのか?

「全部って…なに…?」
「お前の…過去」

 僕はショックで再び気を失いそうになった。頭から血の気が引いた。これを隆が知ったら…終わりだ。つまり、もう、終わっていた。

「言わないでって…言っちゃダメってあんなに…頼んだのに…頼んだのに!」

 僕は叫びだしそうになっていた。

 絶望感が押し寄せてくる。なぜ隆といると、この感覚を覚えるんだろう。絶望感…前にも味わった。これがもしや…置いてきぼりにされて捨てられた時の、あの感覚なのだろうか? そしてこれは単純な絶望感だけじゃなかった。深く僕の胸のそこにはびこる罪の意識…死神の刻印…誰かを死に追いやる僕という存在…

 すると呆れたように隆が呟いた。

「…バカかお前」
「だって!」
「お前は…なんでこれを俺に言わない? 言えなかったのか…? なんで言えなかった? なんで俺が心配してるのを知っていて電話に出なかったんだよ」

 隆は怒っていた。怒りながら僕を問い詰めてきた。