「噛み切って…下さい…僕…それ…要らない」
「それも…いいね…ああ、良いね…噛み切ろうか…」

 唐突に遠慮のない力で、硬くて鋭い前歯が根本に食い込んできた。

「ああっ!」

 寺岡さんはそこから口を離し、指で根本を締め上げ、また僕の耳に口をつけて囁いた。

「食い千切ってあげる…そしたら君の耳元で咀嚼してあげる…いい音だと思うよ…君の肉は」
「はぁぁぁ…うぁ…」

 わざと息を吹き込むように囁くその言葉に頭の中が溶け、僕は身をよじって悶えた。真っ赤に染まった噛み切られた僕のだったすでに動かない肉塊が、ボロ布のようになるまでクチャクチャと音を立てて噛み切られ、切り刻まれて血まみれになっていくのが脳裏に浮かんだ。再びくわえられて、その舌が絡みつく感触と、歯が茎に食い込む感触に僕は急激に登りつめた。カッターで自慰した時みたいに。

「あっ! あっ! あっ! あああっ…い…イクぅぅぅ!!」

 なすすべなく、寺岡さんの口の中に自分の白い体液が注がれていく。寺岡さんのくぐもった鼻声が聞こえた。腰を掴まれて貪るように激しく吸われているうちに、急に飲まれていることに皮膚を灼かれるような羞恥を感じた。

「飲んじゃ…だめ…そんなの…汚いよ…」
「じゃあ…分けたげる」
「え…んんっ…」

 意味がわからないうちに口移しで寺岡さんの唇から生暖かい液体が喉に流れ込んできた。唇を離すと、唾液が糸を引いた。それを寺岡さんは惜しげになめた。

「もったいないけど、半分だけ…あげる…自分の飲んだこと…無い?」
「ない…です…」
「そう…初めてなんだ…いいね…その恥ずかしそうな顔…でも小島君のは飲んだこと…あるでしょ?」
「…あり…ます…」

 それを聞いた寺岡さんは目を細めて僕を眺めると、うっとりと微笑んだ。だがその目はさっき寺岡さんが言ったように、僕の目を見てはいなかった。