とはいえ、この写真集は僕自身にとってなにか他のものと違うテンションをもたらしたことは事実だった。そのことは僕は嫌ではなかった。その事実と、この肉体の自覚といううっとうしい出来事は、いまのところバーターが成立していた。問題は目覚めてしまった性欲をどうやって解消したらいいか、そこだけだった。僕は自分のペニスを手の中で持て余しながら、途方に暮れた。こんなもの無くなってしまえばいいのに。そう思うと、机の上にあるペン立ての中にあるカッターナイフが目に入った。
切ってしまおうか。半分冗談、でも半分本気のような感覚で、僕はペン立てのカッターナイフを空いた手で取った。チキチキチキと音がして、刃がだんだんと鞘から3cmほど押し出されてくる。これでこいつを切り取ってしまおうか。僕は刃先を固いペニスの根本に当てた。陰嚢とペニスの間から上に削ぐように。陰嚢も削いだほうがいい。そしたらホルマリンに浸けて…瓶の中に標本として保存して…
「うっ…」
ガラスの標本瓶の中でホルマリン固定された自分のペニスと陰嚢を想像した途端、僕のペニスが張り詰めた。
そうか…これか…。なにかがわかりかけて、自然にストロークの早さが上がった。切るよ…切っちゃうよ…お前は血の抜けた灰色の肉塊になるんだ…もう固くなることも脈打つこともない、冷えた弾力のない肉塊に!
「うくっ…!」
イキそうになる。興奮して押し当てたカッターの切っ先が皮膚に食い込む。その感触と冷たさが僕を高みに押し上げた。
「くあああっ!」
ドピュッと勢い良く精液が自分の腹に飛び散る寸前に、僕はとっさにカッターを離して左手で亀頭を包んでいた。手の中に噴出した粘液が当たるのを感じた。初めて自分の手でイケた。正確にはカッターでイケた。
「う…つっ…」
ペニスをティッシュで拭こうとすると、ペニスの根本にヒリッとした痛みがあった。カッターを押し当てていた皮膚から、かすかに血が滲んでいた。それを見ると、急に気持ちが萎えた。でも、もう萎えたほうがいい、と思った。



