唇と舌が首筋に触れただけで電気が走った。そのたびに声が漏れた。寺岡さんの指がシャツのボタンを上から順に探していった。なにかがどうでも良くなった途端に、熱への嫌悪感が少しづつ薄れていく自分がとても浅ましく思えた。そう思いながらも、どこかでこれが隆の言っていた“受け入れる”ということなのかとも思った。バーの個室で初めて寺岡さんに抱かれた日を不意に思い出した。あの時も隆に捨てられそうになった。僕は不思議になった。いつも捨て子を拾いに来るこの人は一体どんな気持ちで僕を抱いているんだろうと。

「あのときは…ごめんなさ…んっ…」

 その言葉を唇に吸い取られた。舌が入ってくる。

「は……うくぅ…」
「こんな敏感になるの…?」

 唇を離して、耳に口をつけて意地悪く囁く。頭の中が痺れる。

「こ…こうなったとき…だけで…す…」
「あのとき…って?」
「バーで…会った日…」
「あの時の君が懐かしいな…私を拒んだのに…」
「ごめん…なさい…」
「いいよ…それで良かった…いまはこんなに感じてるんだから」

 シャツの上から胸に指が這う。

「いや…だっ…」
「なにも考えなくて、いい」

 いやだと言いながら、僕の身体は悶えていた。下を脱がされ、シャツの前を開いて素肌がさらされる。その寺岡さんの愛撫の手を退けることもなく、僕は操られるまま嬲られていた。いつもの熱が今日はゆっくりと広がる。熱は時間を掛けて僕を犯す。気が狂ったみたいに切迫していないのはなぜなんだろう…と僕は不思議に思った。あなたが僕を愛していないから? 僕に罪悪感がないから? 僕に期待していないから…? それとも…?

「あの時とは全然…違うんだね…硬くて…すぐ出そう」

 少し冷えた細い指がそこを捉える。誰の指とも違うその感触に、僕の背中が反り返った。寺岡さんは自分のズボンを片手で脱いだ。素足同士が肌に触れると、互いに声と同時にため息が出た。

「私の口の中に出して…お願い」

 寺岡さんは興奮してうわずった声でそう言うと、僕のものを握りしめた。僕は自分の硬さを呪った。